なぜ、マスコミは、どうしたら良いかと野党や与党内の反対派に聞かないのだろうか。そんなことを聞けば、彼らが不愉快になり、政局のネタを喋ってくれなくなるからだろう。政局のネタがそんなに大事なのだろうか。政治指導者が、政策を通じて権力闘争をするからこそ、国民のための政治ができる。誰が権力者であるかは、権力者とその取り巻きにとっては意味があるが、国民にとって意味があるのは権力者が何をするかだけである。
日本では、マスコミが権力者の取り巻きになってしまい、何をするかではなくて、誰が権力者であるかが重要であると思うようになっている。これが政治指導者の資質を低下させている。マスコミが、自分たちは国民のためにあると考えているのなら、国民に代わって、「あなたならどうするのですか」と聞くべきだ。これだけで日本の政治指導者の質は格段に高まる。
もうひとつ、政治指導者の資質を低める事情がある。菅直人総理が福島原発の事故処理で海水注入を止めろと言ったか言わないかで迷走していたら、実は現場では海水注入を続けていたという事件があった(2011年5月27日朝刊各紙)。総理に海水注入を中断すべきか、続けるかなど分かるはずがない。東京電力と役人と斑目春樹原子力安全委員会委員長など役所の連れてきた専門家に聞くしかない。
総理は、おそらく、これらの専門家に話を聞いても埒があかないので、そうとうにイラカンになっていたのだろう。総理のイラカン振りを見て、東電の社員が、総理のご真意は海水の注入を中止することだろうと忖度して現場に伝えた。現場を預かる福島第一原発の吉田昌郎所長としては、忖度するところ総理のご真意は、海水注入中止であるようだから中断した方が良いかもしれないと言われても困る。だから、忖度を無視して海水の注入を続けたというのが真相だったようだ。
野党は、真相が不明にもかかわらず、総理が海水注入を止めたと決め付け、攻撃材料にした。しかし、自民党だったら何ができたのか対案を示した訳でもない。もし、これが攻撃材料になるなら、総理が、あの件はどうなっているかと部下に聞いてはいけないことになる。総理が心配しているというだけで、部下が何かをしたことが総理の責任になるなら、部下に何も聞けない。
権力を握った際の対応を考えぬ野党
総理大臣とは、あまりにも巨大で複雑で全体がどうなっているのかが分からない会社の社長のようなものだ。あれはどうなっているのかと聞いていけないなら、総理は何もできなくなる。野党の党首は、自分が総理になったとき、あれはどうなっていると聞かなくて良いのだろうか。
報告させ、説明させることが、部下と事態を掌握することである。これがなければリーダーは何もできない。政権交代があったということは、野党が権力の座に就くときにリーダーシップを発揮できる仕組みにしておかないと、後から困るということである。野党の政治指導者が、自らその能力を低下させるようなことをしてはいけない。
自民党は、これまでの野党ではない。2年前まで日本を動かしていた大政党だ。一段レベルの高い野党として、現在の与党を批判し、政治指導者の質を高めるような競争をしてほしい。
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