日本語話せぬ日本語学校卒業生
このような状況は、日本語学校を「卒業」しても、日本語が十分話せない学生の出現につながっている。筆者が面談したあるベトナム人留学生は、ベトナムと日本の日本語学校で1年ずつ日本語を学び、専門学校に1年以上在籍しているにもかかわらず、日本語がたどたどしく、友人の助けなしには意思疎通が行えなかった。
日本学生支援機構の私費留学生生活実態調査に基づき、日本語で授業を理解するのに必要とされる日本語能力(日本語能力試験N2以上/BJTビジネス日本語能力テストJ2以上)を有する学生の割合を調べると、非漢字圏出身者では、大学(学部)で学ぶ者の68%、専門学校で学ぶ者の43%にすぎないことが判明した。
ある日本語学校教員は、「某専門学校の進学説明会では、日本語は一切使わず、外国語での説明のみ。アルバイトがしやすい環境であるというアピールが中心で、学習についての言及はほぼない」と話す。無試験で入学できる専門学校が多く存在し、一部の大学でも同様であるという。留学生はSNSなどで、一部進学先に日本語が必要ないことを先輩から聞いており、勉強しなくても問題ないと考え、学習意欲が低い者も少なくない。このような現状から、「日本語学校は日本語を教えるところではなく、ビザを売るところだ」と自嘲する日本語教師もいる。
留学生の増加に伴い、日本語教師が不足する事態にもなっている。文化庁の調査では、法務省告示校(入学者に留学ビザが申請できる学校)における日本語教師の67%は非常勤である。彼らの報酬は45分授業について2000円前後にすぎず、優秀な人ほどすぐに辞め、他の業界に移ってしまう状況にあるという。
10年に449校だった日本語学校(法務省告示校)は、18年8月時点で711校に増加した。うち298校が加盟する日本語教育振興協会では、加盟校の58%が株式会社・有限会社で、学校法人・準学校法人は28%にすぎない。株式会社が運営する日本語学校の中には、人材派遣業(学生をアルバイト先に派遣して紹介料)、不動産業(学生を保有アパートに住まわせ家賃収入)との兼業により、二重三重の利益を得ているケースもある。
日本語学校に学校法人が少ないのは、学校教育法に専門学校について「我が国に居住する外国人を専ら対象とするものを除く」という規定があることも一因だ。学校法人として認められない状態では、安定性、永続性、公共性という教育に必要な要件が十分に担保されない、と指摘する日本語学校関係者もいる。
上の図は、海外から日本に留学するルートと、日本語教育に関わる省庁を示している。日本学生支援機構の私費留学生生活実態調査に基づく推計では、日本語学校(法務省告示校)を経由して高等教育機関(専門学校含む)に進学する留学生の割合は6割に上り、日本の留学生受け入れ政策の重要な部分を担っている。