2024年4月26日(金)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年12月8日

李登輝の「意外な反応」

 そうなると、中国との関係を重視する国民党が再び政権の座につき、中国と接近することになるのかが気にかかる。日本にとっても、台湾は重要な自由民主主義陣営のパートナーであると同時に、台湾が中国とは別個の存在でいてくれることが日本の安全保障においても大いに資するからだ。

 となると、今回の結果を李登輝はどう見ているのだろうか。選挙の翌々日に顔を合わせる機会があったので、さぞや落胆しているのかと思いながら聞いてみると「心配半分、喜び半分」だという。

「どういうことですか」と思わず聞いたが、次のような答えが返ってきた。まず「心配」の部分だが、これはどの党が躍進したとか、誰が当選したかということよりも、あまりにも極端な選挙結果になってしまったことで政治の安定性が損なわれるのではないか、という心配だ。

 さらに、与党民進党が大敗したことで、政権は大きなプレッシャーにさらされることになる。その結果、本来進めるべき経済政策や政治改革を実現できなくなるおそれがあると憂いているのだ。

 ではもう一方の「喜び」とはなんだろうか。それは李登輝がこれまで進めた民主化、そしてここ数年来ずっと主張してきた「第二次民主改革」に関連している。李登輝によれば、自身が進めた台湾の民主化はまだ道半ばだという。

 つまり、台湾の有権者はこれまで「選挙で投票することが民主主義だ」と勘違いしていることが多かった。しかし、本当の民主主義とは、投票終了後も有権者自身が政治に参加し、政府や立法院を監視することが必要なのだという。

 投票して終わり、ではなく自身も政治に参加するという意識を広めることが、李登輝のいう「第二次民主改革」なのだ。

 そうした意味で、今回の選挙では、政党やイデオロギーに左右されることなく、有権者が主体性を持って選択をしてくれたことを大いに満足しているようだ。

 とにかく今回の選挙はドラスティックな結果に終わった。国民党が「党始まって以来の」大惨敗を喫し、民進党が大勝した4年後、まるで正反対の結果が生まれたのだ。

 前述のように、この統一地方選挙の結果によって、次の総統選挙で民進党が政権を維持できる可能性が限りなく下がったと言われている。しかし、中国と一定の距離を置くことを主張してきた民進党が、中国と密接な関係を持つ国民党にとって代わられることは日本にとっても大きな影響を与える。

 2020年1月と目される総統選挙まであと1年あまりとなり、すでに総統選挙レースが始まったとも言われている。今回の統一地方選挙の投票率は70%近かった。台湾においても若者の政治離れが進んだ、と言われてもまだこの数字を保っている。

 私たち日本人も、台湾の人々が政治に関心を寄せる熱意と同じくらいの熱意を持って、これからの台湾の動向に関心を持ち続けていく必要があるのではないだろうか。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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