2024年4月18日(木)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年11月23日

唯一の日本人秘書である早川友久さんが、台湾の元総統・李登輝さんの知られざる素顔を解き明かします。

李登輝元総統(AP/アフロ)

 李登輝は2000年に総統を退任後、9回の訪日を果たしている。李登輝の訪日が報じられると、必ず激烈な反応を示すのが中国だ。外交部のスポークスマンが「李登輝は戦争メーカー」「台湾独立運動の親玉」と口汚く罵る光景がお決まりのようにニュース映像で流される。

 ただ、李登輝は言う。「私はこれまで『台湾独立』など一度も主張したことがない」と。そう聞くと誰もが疑問に思うに違いない。

 台湾を民主化に導いたばかりか、中国が演習と称して打ち込んで来たミサイルにひるむことなく、「うろたえるな。対策は練ってある」と台湾の人々を鼓舞し続けた李登輝が、今まで台湾独立を主張してこなかったなどと誰が信じるだろうか。

 しかしそれは事実だ。その陰には、台湾独立をめぐる複雑さと、現実主義者に徹して台湾を守り続けた李登輝の真意がある。

「台湾独立」に対する2つの解釈

 日本でも、台湾が独立した存在であり続けることを応援する人たちは多い。ただ、ここで誤解されやすいのが「台湾はどこから独立するのか」という問題である。

「台湾独立」について筆者も多くの日本人から質問されたりするが、日本人が持つ「台湾独立」に対する解釈には二通りあると言える。

 ひとつは「中華人民共和国からの独立」である。これは多分に、中国側の「台湾は中華人民共和国の不可分の領土であり、台湾が独立することは許さない」という主張が日本メディアで多く流されていることによる「弊害」なのではないだろうか。

 確かに中国は台湾を自国の領土だと主張しているが、はっきり言ってそれは荒唐無稽である。つまり、中華人民共和国は1949年の建国以来、一度たりとも台湾を統治したこともないわけで、もともと別個の存在だった台湾を「我が国のもの」と主張しても説得力に乏しい。

 とはいえ、中国は台湾との統一を「核心的利益」とまで言っているので、そうした中国との決別の意味で「台湾独立」という主張を捉えている日本人も少なからずいる。

 もうひとつの捉え方が「中華民国体制からの独立」である。ここが「台湾問題」と呼ばれるものの複雑さなのだが、台湾は正式な国号を「中華民国」と呼ぶ。

 昭和20年の敗戦まで、台湾は日本の統治下にあったが、日本がアメリカに占領されたのと同様、台湾もまた中華民国に占領された。幸い、日本は昭和27年にいわゆるサンフランシスコ平和条約が発効して独立国としての主権を回復したが、台湾はそうはいかなかったのである。

 中国大陸では国民党率いる中華民国と、共産党による「国共内戦」が激化、共産党に敗れた国民党は、ほうほうの体で台湾に逃げ込んでくるのだ。その結果、1949年には中国大陸に共産党率いる中華人民共和国が成立。

 一方、台湾には国民党率いる中華民国が逃げ込んだ。いわば国ぐるみで移転してきたわけだ。台湾にとっては、占領統治がいつの間にか居座られたようなものである。

 さらに、国民党は統治をしやすくするために、日本時代に高等教育を受けた知識層を無実の罪で軒並み処刑した。政府に楯突くエリート層を一掃し、言論の自由を奪って恐怖政治を敷いたのだ。

 こうした状況のなか、「台湾独立」という主張が生まれてくる。つまり、中華民国政府の統治ではなく、台湾として独立したいという考えである。

 とはいえ、台湾においては「台湾独立」は最も危険な思想であったため、台湾独立運動は主に国外で展開された。日本統治を経験した人々にとっては、言葉が通じ、地理的にも近く、言論の自由も保障された日本がひとつの基地になったのは言うまでもない。


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