2024年12月2日(月)

日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

2018年11月23日

李登輝が「台湾独立運動」の中心人物と親しかったワケ

 ただ、日本で台湾独立運動に携わったため、長らく国民党のブラックリストに載せられて帰国出来なかった、台湾独立建国聯盟の黄昭堂・元主席(故人)とは公私にわたって仲が良かった。

 2007年に念願の「奥の細道」をたどる訪日の旅が実現したときも、李登輝みずから黄昭堂に「一緒に日本に行かないか」と声をかけている。

 李登輝に同行した黄昭堂だが、夜遅くにこっそり投宿先のホテルオークラに戻ってきたのを何回か目撃した。

「どちらへ?」と聞くと、イタズラが見つかった子供のように「東京に戻ってくるとラーメンが食べたくてしょうがないんだ」と笑っていたことを思い出す。

 また、時にはプライベートで自宅に黄昭堂を呼び寄せ、台湾をこれからどうしていくべきか討論を交わしながら、ウイスキーを二人で空けたこともあるんだと、李登輝は時おり黄昭堂の思い出話をしてくれる。

 台湾独立を「これまで一度たりとも主張したことはない」という李登輝であるから、黄昭堂が人生を捧げた台湾独立運動とは、相容れない部分もあったかもしれない。

 それでも、この二人が意気投合出来るのは、たとえやり方が異なったとしても、台湾が独立した存在を維持し、台湾の人々の幸福を実現するという最終的な理想のかたちが共通したものだからに違いない。

「実質的な台湾独立」を維持するため、日本ができること

 10月下旬、台湾の大陸委員会(対中問題を処理する窓口機関)は定期的に行われている「両岸関係(台湾と中国の関係)」に関する世論調査の結果を発表した。そのうち「これからの台湾と中国の関係はどのようになるのを望むか」という設問については、実に80パーセント以上もの人々が、「まずは現状維持」あるいは「永遠に現状維持」を選択した。

 台湾が自由かつ民主主義陣営として、日本と連なる位置に存在することは、安全保障の面からみても、大きな意義がある。

 アジアの近隣諸国を頭に思い浮かべてほしい。現在、アジアにおいて日本と同じ「自由、民主、人権、言論の自由」などといった価値観を共有できる国が他にあるだろうか。

 そうした意味で、台湾が中国と別個の存在であり続けることが、日本にとって大きな国益にもなる。外交関係こそないものの、アジアにおいて台湾だけが日本のパートナーになりうると断言してもいいだろう。

 目下、台湾の人々が中国との関係を「現状維持」のままでいたいと望んでも、中国は絶え間なく、台湾を統一するための攻勢を仕掛けてきている。台湾の独立した存在が失われれば、安全保障はもとより、日本は同じ価値観を共有できるパートナーを失い、アジアで孤立した存在になるだろう。

 台湾が中国とは別個の存在であり続けるために、台湾の国際機関へのオブザーバー参加支援、外交関係がなくとも提携できる分野、たとえば経済や文化、科学技術、教育面での協力関係締結など、日本ができる方策は山ほどある。それを実行させるためには、ひとりでも多くの日本人が台湾の重要性を理解することだ。

 それが、現実主義に徹することで台湾の「存在」を確保し、実質的な台湾独立を維持し続けることを可能にした李登輝の思いに応えることではないだろうか。

連載:日本人秘書が明かす李登輝元総統の知られざる素顔

早川友久(李登輝 元台湾総統 秘書)
1977年栃木県足利市生まれで現在、台湾台北市在住。早稲田大学人間科学部卒業。大学卒業後は、金美齢事務所の秘書として活動。その後、台湾大学法律系(法学部)へ留学。台湾大学在学中に3度の李登輝訪日団スタッフを務めるなどして、メディア対応や撮影スタッフとして、李登輝チームの一員として活動。2012年より李登輝より指名を受け、李登輝総統事務所の秘書として働く。

  
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