2023年1月30日(月)

立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2018年12月12日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

中国企業経営の本質、人件費は変動費である

 中国企業は基本的に欧米企業によく似ている。たとえば、ファーウェイの人事制度では下位評価を得た社員の5%が定期的に淘汰され、さらに「45歳役職定年説」も存在しているようだ。中国では「末位(ボトム)淘汰制」と言われるシステムは何もファーウェイに限った話ではなく、ごく普通に多くの民間企業に採用されている。そのボトムは5%だったり、10%だったり、20%だったり、あるいは会社の経営状況によって変動したりすることもある。

 ファーウェイではないが、私は多くの中国企業の経営者と対話してきた。人件費を基本的に変動費だと認識している経営者がほとんどである。たとえ固定費だとしても、その固定費をいかに変動費化するかという課題を彼らは常に懸命に考え、行動を起こしているのである。

 中国企業の経営者からよく頼まれることは、日本人技術者の紹介、いわゆる引き抜きである。私はヘッドハンティングの仕事をやっていないと断っても、しつこくヘッドハンターを紹介してくれと言ってくるのだ。人材にはかなりいい条件を出している。概ね日本企業の1.5倍から2倍の給料が相場である。彼らは日本人経営者が固定費扱いする賃金の相場観たるものをもっていないのだ。彼らは数年間という期間に人材のアウトプット(成果物提示)に相応する人件費、つまり変動費的な計算に終始しているのである。

日本の歪んだ人件費と雇用のメカニズム

 これは日本企業がどうしても価値観的に認められない部分である。と言いたいところだが、事実はどうであろうか。

 ここのところ、日本企業の正社員と契約社員の格差が問題にされることが多い。いわゆる非正規雇用の問題。非正規雇用とは、有期労働契約に分類され、契約社員(期間社員)やパートタイマー、アルバイトなどの雇用形態を指している。

 少子高齢化、人口減時代に突入した日本では、企業にとって雇用の確保は容易ではなく、人手不足感が強まっている。この文脈で考えると、雇用の保障がより強い正社員雇用の比率がどんどん上昇するはずだが、実際はそうなっていない。総務省の労働力調査によれば、2017年の正規の職員・従業員は3423万人と56万人の増加、非正規の職員・従業員は2036 万人と13万人の増加となった。被雇用者に占める非正規の職員・従業員の割合は 37.3%と前年比0.2 ポイント低下したものの、依然として高水準にある。

 高水準の非正規雇用は何を意味するか。財務的に考えると分かりやすい。正社員の人件費が固定費であるのに対して、非正規雇用社員の人件費は変動費、あるいは準変動費である。非正規雇用の社員は経営状況によって解雇・雇い止めできるからだ。

 この通り、実は日本企業にも、「人件費の変動費化」という高い潜在的需要があるのだ。なるべく雇用や賃金の流動性を求めたい。これが非正規雇用比率の高止まり現象につながっている。

 よく見ると、これは本稿冒頭に述べた「ハイリスク、ハイリターン」の原理に反していることが分かる。本来ならば雇用の流動性と引き換えに高給が付与されるはずだが、なぜか日本の非正規雇用は「ハイリスク、ローリターン」に逆転してしまっているのだ。その原因を追及すると、長編になるので、ここではとりあえず割愛し、この論考は別の機会に譲りたい。

 そういう意味で、中国企業の経営、殊に人事政策に関してはたびたび少々乱暴な場面もあるが、全体的に市場原理に即しているともいえる。

連載:立花聡の「世界ビジネス見聞録」

  
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