不撓不屈の台湾自転車野郎
12月5日。グレートオーシャンロード観光の中心、アポロ・ベイの市民公園のBBQハウスにテントを設営。夕刻自転車旅行中の台湾青年チョー君が来た。BBQハウスで一緒に夜営。
チョー君は21歳の大学生、現在は休学中。世界一周の途上。自転車や装備一式がピカピカの新品だ。理由を聞いてびっくり。4カ月前にシドニー付近で自動車に追突されて自転車は大破、自身も腕と肩を骨折。
チョー君は一旦帰国して治療に専念。交通事故の加害者から支払われた賠償金で自転車と装備一式を新調。そして世界一周に再チャレンジ中とのこと。
チョー君は「交通事故は怖いけど、自転車旅行は感激の連続です」と意気軒昂。4年前にプノンペンで出会った世界一周自転車旅行中の邦人青年を思い出した。南米で強盗数人に襲われナイフで腕や腹を刺され、パスポートと貴重品を全て奪われた。この邦人青年もいったん帰国して改めて資金を貯めて再度世界一周に挑戦中だった。
知人の登山家の青年は、今まで何度か遭難を経験。同行者が目の前で滑落死したこともあった。彼は言った、「それでも登山を止められない。それほど山が好きなんです」。
潜在的リスクに怯えていては人生を楽しむことはできないということか。
素晴らしい絶景は海難事故の歴史
プリンスタウンからポートキャンベルまでは断崖絶壁と奇岩が聳える海岸線が続く。この区間でいくつか海難事故の石碑をみかけた。このあたりは“難破海岸”(shipwreck coast)とも呼ばれている。碑文を読むと時代により難破したボートも帆船、蒸気船、汽船と様々である。
ある碑文には19世紀末のビクトリア女王時代に起こった海難事故で16歳の少年と15歳の少女を除いて乗員・船客全員が亡くなった悲劇を伝えていた。少年は見習い船員のボーイ。少女は商用も兼ねて旅行中の英国の富裕な商人一家の娘。
二人は難破海岸に漂着して九死に一生を得た。生死を分けた壮絶な体験を経て、映画“タイタニック”のようにロマンスが生まれたのだろうか。ポートキャンベルのカフェでオーナーに聞いたら、「史実によると二人は全く別の人生を歩んだと聞いている。当時は身分制社会なので、余りにも身分や境遇が違う二人にはロマンスが生まれる余地はなかったんじゃないかな」との散文的コメント。
⇒次回に続く
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