日本が強みとする自動車産業も5Gを契機に大きく変貌しそうだ。通信の遅れがほとんど発生しない5Gの機能を用いて、より安全性を担保できる自動運転システムを実現できる。こうしたシステムをいち早く実現した陣営が、次世代の産業の主導権を握る。逆に言えば5Gで出遅れた国は、自動車産業を含めて今後、あらゆる分野で不利になる恐れがある。
単独で生き残れない日本の通信機器メーカー
5Gを構築する通信インフラ分野で日本は、既に世界に後れを取っている。今や携帯基地局市場では、ファーウェイを筆頭にエリクソン、フィンランドのノキアの大手3社で市場の約8割を占めている。日本メーカーのNECと富士通の世界シェアは、それぞれ1%前後に過ぎず、NTTドコモ向けのビジネスで生き延びている状況だ。
そのNECと富士通も単独での5G機器の早期開発を断念し、18年10月末にNECは韓国サムスン電子と、富士通はエリクソンと提携を結んだ。
関係者によると「NTTドコモが19年9月に予定する5Gのプレサービス開始にNECと富士通とも開発が間に合わず、グローバルベンダーとの提携の道を選んだ」という。グローバルに通信規格が統一され、規模の経済が働く時代に入り、日本の通信機器メーカーは単独での生き残りが難しくなっている。
安全保障上の理由から米国政府が中国製機器排除を関係各国に働きかける動きも、日本の5Gビジネスに影を落としそうだ。ソフトバンクはファーウェイや中興通訊(ZTE)製の基地局を既に導入しているからだ。日本の携帯大手3社は、5Gを現行の4Gネットワークと連携して導入するため、日本政府が中国企業排除の方針を打ち出したとすれば、その影響は大きい。場合によってはネットワーク機器の入れ替えが発生するため、5Gインフラの展開の遅れにつながる恐れがある。
折しも政府からの携帯料金の値下げ圧力で、国内携帯大手3社は既存の携帯電話に頼った構造からの脱却を迫られている。NTTドコモは19年春に携帯料金を2~4割値下げする方針を打ち出した。当面減益が続く見通しだ。ソフトバンクも通信事業に携わる人員を4割配置転換する方針だ。
利益回復の大きな要素となるのが5Gを活用した新ビジネスだ。5Gを早期に立ち上げることが自らのビジネスにとって不可欠なほか、日本の産業界にとっても欠かせない取り組みになる。国家間の競争の狭間で日本が5Gのリーダーシップを取るための残された時間は少ない。
■米中5G戦争「華為排除」で転換迫られる産業界
PART 1 5G幕開けで変わる産業構造 出遅れる日本の通信業界
PART 2 ”実害”なくとも中国企業は排除 背後の共産党を恐れる米豪
PART 3 米国が最先端技術にかける網 日中共同開発は実質的に不可能に
COLUMN 米国の意向が最優先の現実 脱・ファーウェイは外交問題
PART 4 英国の脆弱なインフラと大学 「合法的」に諜報活動を行う中国
PART 5 米中ハイテク戦争の結末は?中国は半導体製造装置がアキレス腱
INTERVIEW 米国が狙う中華5Gの”不拡散” 「宣戦布告」になすすべのない中国
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