米国や韓国の一部で2018年末から第5世代移動通信規格「5G」の商用サービスが始まった。5Gは現行の携帯電話サービスと比べて実効速度は100倍、通信の遅れがわずか1ミリ秒という特徴を持ち、自動運転や遠隔医療など単なる通信を超えた社会基盤になる可能性がある。世界経済に与えるインパクトも大きく、英IHSマークイットの調べによると、その経済価値は35年までに12・3兆ドルに達する見込みだ。
次世代の社会基盤となる5Gは、激しさを増す米中摩擦の焦点の一つだ。米国は中国メーカーの排除に乗り出し、各国へ同調するように働きかけを強めている。日本国内でも19年後半から段階的に5Gの商用サービスが始まる見込み。米中摩擦の狭間で日本は5Gで再び競争力をつかめるのか。岐路に立たされている。
ファーウェイ幹部が逮捕された意味
カナダの捜査当局は12月5日、米政府の要請を受けて中国の大手通信機器メーカー・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟・副会長兼最高財務責任者を逮捕した。米国が経済制裁を科しているイランに対して、違法に製品を輸出した疑いが取り沙汰されている。
米政府の狙いは明白だ。世界の通信機器市場の中で今や技術的にリードする存在になった中国の通信機器メーカーの影響力増大を恐れている。英IHSマークイットの調べによると、携帯基地局市場の17年の売上高シェアで、ファーウェイは長らくトップに君臨してきたスウェーデンのエリクソンを抜いてトップに立った。
ファーウェイは中国人民解放軍の出身者が1987年に設立した。日本国内でも携帯大手3社が扱うなどスマートフォン(スマホ)分野で存在感を増しているが、主力は通信事業者向けの基地局やネットワーク機器だ。売り上げの過半を占める。
ファーウェイは5Gで既に20を超える商用契約を結んでおり、英ボーダフォンやドイツテレコムなど世界の大手通信事業者と共同で取り組みを進めている。5G関連の技術をけん引する存在になっている。
あらゆるデータを運ぶ通信インフラを中国メーカーが握れば、機器を通じて機密情報が漏えいする恐れが生じる。自動運転など重要な社会インフラの基盤に5Gが使われることになれば、そのリスクはさらに高まる。
米国政府は8月、政府の調達や政府と取引する企業に対し、安全保障上の理由からファーウェイなど中国企業の機器の利用を禁じる方針を示した。その動きにオーストラリアやニュージーランドも同調。欧州でも大手通信事業者である英BTがファーウェイ製品を基幹ネットワークに採用しない方針を表明した。