植物状態の人の15~20パーセントは、
応答できなくても完全に意識がある
著者のエイドリアン・オーウェンは1966年、英国生まれの神経科学者。現在は、カナダのウェスタン大学脳神経研究所認知神経科学・イメージング研究部門のカナダ・エクセレンス・リサーチ・チェアーである。「植物状態の患者に関する研究により、脳損傷患者のケア、診断、医療倫理、法医学的判断といった幅広い分野に新たな観点をもたらした」と、著者略歴にある。
英国とカナダにおける四半世紀にわたる認知神経科学分野の先駆的な研究によって、著者は、「物事を認識する能力が皆無だと思われている植物状態の人の15~20パーセントは、どんなかたちの外部刺激にもまったく応答しないにもかかわらず、完全に意識がある」ことを見出した。「損傷した体と脳の奥深くに、無傷の心が漂っているのだ」と、著者は語る。
冒頭、女子大生エイミーのケースが紹介される。頭を縁石にぶつけた事故で植物状態になり、生命維持装置につながれている。
延命措置の事前指示書がないのだから、生命維持装置をはずし、死なせてあげることを考えるべきではないか? 本人も望んだだろうことではないか?
医師たちにやんわりと伝えられた両親は、愛娘を著者の研究室に搬送した。そこでは、深刻な脳損傷を負った患者や、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患が進んだ患者を検査している。
<私たちは、信じられないような新しいスキャン・テクノロジーを使って患者の脳と接触し、脳の機能を視覚化し、内部の様子を徹底的に調べる。すると、人間がどう考えたり感じたりするかが明らかになり、意識の基盤や自己感覚の構造もわかってくる。つまり、生きているとはどういうことか、人間であるとはどういうことかの本質が浮かび上がるのだ。>
詳細なスキャンの結果、エイミーはただ生きているだけでなく、完全に意識があることがわかった。まわりで交わされる会話を一つ残らず耳にし、病室に入ってくる人を全員認知し、自分に代わって下される決定をすべて聴いていた。
筋肉を動かせないので、「私は今もここにいます。まだ死んでいません!」と周囲に告げるすべがないだけなのだ。