第三に、最も重要なことであるが、本件がこれほど注目を浴びた背景には、米中間の技術覇権をめぐる争いがある。HuaweiとZTE(中国通訊)に対する米国の安全保障上の懸念は、少なくとも2012年に遡る。当時、下院情報委員会が両社の安全保障上の脅威について調査を行い報告書を出している。報告書は、両社がスパイ活動を行っている可能性を警告し、両社が中国政府の影響力下にあることに注意を怠らないよう求めている。トランプ政権になって、両社に対する締め付けは強化されている。政府は、2019年国防授権法に基づき、来年8月以降、政府機関は、HuaweiおよびZTEなど5社の機器の調達を禁じられることになる。2020年8月には更に締め付けが強化される。
最近HuaweiとZTEへの危機感が高まっているのは、特に5Gについてである。5Gは次世代の通信規格で、現行の4Gと比べて100倍の高速通信が可能になる。5Gは、中国によるスパイやサイバー窃取を容易にするとともに、無人偵察機など軍事目的でも幅広く使用され得る。中国政府は、「中国製造2025」で5Gを含む次世代IT産業を重点分野に指定している。つまり、HuaweiとZTEは、米国ひいては西側にとって、経済上のみならず、安全保障上の脅威である。米、英、カナダ、豪、NZのいわゆる「ファイブ・アイズ」(機密情報共有の協定を結んでいる5カ国)は、こうした脅威認識を共有し、HuaweiとZTEのサイバーリスクについて他の同盟諸国に情報を提供し、5GネットワークではHuaweiとZTE以外を利用するように促したり、両者の製品の購買自体を止める要請もしている。日本政府もこれに呼応して、政府調達からHuaweiとZTEを事実上排除する措置を執った。
HuaweiやZTEの安全保障上の脅威が、日本を含めた西側諸国の間で共有されつつあるのは結構なことである。中国とのテクノロジー戦争は、今後とも長く続くことは間違いない。孟の案件は、この「戦争」を戦う上で、西側が、法の支配を遵守した適切な手段を選ぶこと、そして、結束をより強めることの重要性を教えているように思われる。
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