2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年12月26日

 12月6日カナダの司法当局は、中国の通信機器最大手Huawei(華為技術)の最高財務責任者(CFO)にして、同社創業者の娘で後継者ともみなされている孟晩舟を逮捕した。米国の対イラン制裁に違反し虚偽の申告をした容疑で、米国が孟の引き渡しを求めていたのに対しカナダが応えた形である。孟は、カナダの裁判所による審理を経て11日に保釈されたが、本件は、法の支配、そして、米国ひいては西側と中国との機微な技術をめぐる争いについて、大いに示唆を与える結果となった。

(artisteer/ExpressIPhoto/iStock)

 第一の論点は、孟の逮捕が政治的意図をもってなされたか否かである。孟が問われているのは、2009年から2014年にかけて対イラン制裁違反である。しかし、これまで、対イラン制裁違反の容疑では、金融機関や企業に罰金が科せられてきたものの、幹部が逮捕されたことはない。したがって、12月7日付けフィナンシャル・タイムズ紙社説‘Huawei arrest imperils a fragile US-China truce’が指摘する通り「単純に法の執行ではなく、政治的・経済的目的を追求するための米国の力の行使だと解釈されるリスクがある」ということになろう。

 第二に、米国やカナダの措置が直ちに法の支配に反するかどうかは留保の余地がある。司法当局が法律に則って適正な手続きをとり行政府が表立った介入をしない限りは、法の支配に反するとは言えない。カナダの対応は、そのようなものであった。それに対し、中国当局は、2人のカナダ人を不当に拘束し、経済的ボイコットもちらつかせて、カナダに孟の釈放を迫った。これは、報復措置と見られ、明らかに法の支配に反する。さらに驚愕させられたのは、トランプ大統領がロイターとのインタビューで、米中貿易交渉の進展に役立つのならば本件をカードとして使う旨、明言したことである。これも法の支配の精神に反する酷い発言であり、カナダを苦境に陥れるものである。ウォール・ストリート・ジャーナル紙のNathaniel Taplinによる12月12日付けコラム‘Trade Deals With China—Done the Chinese Way’は、トランプのやり方を「中国流」と評しているが、言い得て妙である。その後、米加2プラス2で、ポンペオ国務長官とカナダのフリーランド外相との間で、司法手続きと政治の分離、拘束されているカナダ人2名の即時解放要求などが話し合われ、トランプの発言に軌道修正が加えられつつあるように見える。


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