今までにない華やかで味わいの深い酒
ところが酒を造ってみると、通常の造り方では辛くて旨(うま)くない。思い切って18%まで磨いてみたところ、一気に味が変わったのだという。「今までにない華やかで味わいの深い酒ができた」という。しかも、堀江杜氏の技術で、この酒は長期熟成してもほとんど色が変わらず、劣化しないという。
減農薬、有機農法で育てた2015年産のイセヒカリを使って16年に純米大吟醸の「夢雀」を発売した。
問題は価格だった。イセヒカリは山田錦に比べて面積当たりの収量が少ない。しかも、「農家にも儲(もう)けてもらうため」(原さん)山田錦よりも高値で買い取った。実は、アーキスという会社は社長の松浦奈津子さんが行ってきた古民家再生など地域おこしを主体とする活動から生まれた。自分たちだけが儲けることを第一義にしていない。
その精魂込めて契約農家が作ったイセヒカリを18%まで磨いたため「原料費は通常の酒の4倍にはなっている」と原さんは言う。しかも粗製乱造しないため、1000本限定とした。
「1本18万円にしたいがそんな高額の日本酒は前例がない。かといって1万8000円では大赤字になる。ならば8万8000円にしよう、と決めました」と原さん。数字の8にこだわったのは「八」が「末広がり」で吉数だから。日本的な験担ぎである。
「その値段でどこで売れるんですか」 行政も、酒蔵の関係者も、ことごとく反対した。
いったい、どこで売るのか。原さんは日本国内で売る気はさらさらなかった。まずは香港。そしてドバイ。世界の大富豪が集まる場所で売ろうと考えたのだ。
原さんはかつて商社に勤めていた時代の人脈などを頼りに、直接売り込みにかかった。
イセヒカリを18%にまで磨き込み、蒸し米とこうじ米を通常とは異なる比率で混ぜた「夢雀」は、日本酒とは思えないフルーティーな味わいで、まさに「ライスワイン」と呼ぶにふさわしい。もちろん、ワイングラスに注ぐが、その芳醇な香りは華やかだ。海外のワイン通をうならせた。「これは本当にサケなのか」。
日本酒の4合瓶は720ミリリットルだが、シャンパンをモチーフに750ミリリットルの深い青色の瓶にした。ラベルは伊勢神宮の神田で発見されたイセヒカリのイメージから、お札(ふだ)のようなタテ型にした。外国人が親しむ「洋」の形に、日本の伝統的な「和」のテイストを織り交ぜたのである。
結果は上々だった。香港のマンダリンオリエンタルホテルやドバイのアルマーニホテルなど高級ホテルが買い入れた。また、香港の酒販会社のオーナーからまとまった注文も入った。
ビンテージならではの「売り方」にもこだわっている。