2022年11月27日(日)

VALUE MAKER

2019年7月15日

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磯山友幸 (いそやま・ともゆき)

ジャーナリスト

千葉商科大学教授(4月から)。1987年日本経済新聞社に入社。フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長などを務め、11年に独立。著書に『2022年、働き方はこうなる』(PHPビジネス新書)など。

 1本8万8000円の日本酒(750ミリリットル、税別)が評判を呼んでいる。「夢雀(むじゃく)」。山口県の創業支援などを受けて設立されたARCHIS(アーキス)というベンチャー企業がプロデュースして2016年に生み出した。ターゲットはロマネ・コンティを買うような世界の富裕層だ。

【原亜紀夫( はら・あきお)】
1969年山口県宇部市生まれ。山口県周防大島にある独立行政法人国立高等専門学校機構・大島商船高等専門学校を卒業後、商社に勤務し、国際経験を積む。40歳を過ぎてから、建築業を営む実家に戻るため帰郷した。古民家再生事業で同じく山口県出身の松浦奈津子氏と出会い、アーキスに加わることになる。(写真・湯澤 毅、以下同)

 ビンテージ日本酒は作れないだろうか─。アーキス副社長で夢雀プロジェクトの責任者である原亜紀夫さんの思いつきから話は始まった。

 日本酒といえば、その年穫れた米を原料にした新酒を飲むのが一番というのが半ば常識である。年によって米の出来に良しあしはあるが、だからといって17年産の日本酒を保存しておこうということには普通はならない。時に古酒というのも出回るが、変色し味も日本酒からかけ離れていく。古ければ珍重されるというものでもない。

 この点、ワインとは違う。ワインはぶどうの出来によって年ごとに評価され、価格も付く。いわゆるビンテージものである。それを日本酒で実現できれば、日本酒の付加価値が大きく高まり、業界が成長するのではないか。

 そんなことを考えている時に、岩国の錦帯橋(きんたいきょう)が架かる清流錦川をさかのぼった小さな町、錦町にある酒造会社堀江酒場の杜氏(とうじ)・堀江計全(かずまさ)さんと出会う。「金雀(きんすずめ)」というブランドで低温で長期熟成させる日本酒を開発していたのだ。堀江酒場は江戸中期の1764年創業。家伝の技術を守りながら、新しいものに挑戦していたのだ。原さんは堀江酒造に醸造を委託することを決める。

 原さんが選んだ酒米は一般的な山田錦ではなく、イセヒカリという品種。1989年に伊勢神宮の神田で偶然発見された。その年、伊勢地方は二度、台風に襲われたが、コシヒカリが完全に倒れた中で二株だけ立ち上がったのがこの苗だった。後にイセヒカリと命名され、それが山口県で栽培され続けていたのだ。「嵐にも耐えた奇跡とも言える神酒米は世界一の酒造りにふさわしい」。そう原さんは思ったという。

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