シリアルナンバーをつける
数量限定でシリアルナンバー入りとしたのだ。購入希望を受け付ける際に、誰が購入したかをすべて把握、商品には鑑定書を付けて発送する。手に入らない限定品ではしばしば空き瓶が取引されたり、偽物が出回ったりする。それを防ぐ狙いもあるが、狙いは「夢雀の価値の劣化を防ぐ」ためだという。
「夢雀」の2016年物は、その後、10万8000円で販売していたが、ほとんど在庫がなくなったため、販売を取りやめた。8万8000円で売り出したものが、時と共に希少性を増し、価格が上昇していく。これこそ、原さんが思い描いた「ビンテージ」の姿だ。
17年物はコメの出来が悪く、酒の製造を見送った。今販売しているのは18年物である。今年も米の出来さえ良ければ、仕込みが始まる。
富裕層の世界では、ワインは飲んで楽しむものであると同時に投資の対象でもある。瓶詰直後にまとめ買いをして自分のワインセラーで熟成させておけば、いずれ時と共に価値が増していく。日本酒もそうした世界標準の「買われ方」をするようになれば、まだまだ需要も増え、価格も上昇する。世界に通用する本当に良いものを作れば、価格は天井知らずだ。
「いずれ、ロマネ・コンティの横にライスワイン(日本酒)のビンテージものが並ぶ時代が来ればいい」と原さんは夢を膨らませている。
戦後長い間、日本企業は「良いものを安く売る」ことが使命だと考えてきた。確かにモノの足りない時代はそれで人々の生活が豊かになり、日本全体を成長させてきたのは間違いない。
ところが日本がモノ余り、カネ余りの時代に突入して長い時間がたつ。いわゆるデフレの時代だ。確かにものは溢れたが、企業は儲ける術(すべ)を失い、人々は低賃金に喘(あえ)いでいる。
そこから脱出して、再び経済を成長させるには、より良いものを高い値段で売る「高付加価値経営」が不可欠だ。ここでは、最高のものを高く売る商品開発や販売の仕組みなどに挑む全国各地の取り組みを取り上げていく。
写真・湯澤 毅
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