熱意が伝染していく
プラスチックの成型・加工を行うセイホー社の青木邦貴さん(42)も、インターンシップを受け入れた経営者の一人。「最初にフィリピンの話を聞いたときには、ピンと来ませんでした。それでも、先に行った人たちの話を聞いていると、だんだんその熱意が伝染してきて、自分も行かなきゃと思ってました」と笑う。
青木さんたちフィリピンに一歩踏み出した経営者が共通して帯びているのは、この「熱量」だ。親から会社を引き継いだものの、見通しは決して明るくない。そうしたなかでリーマンショックをはじめとした数々の危機を乗り越えてきた。
それでも日本にいる限り、見える風景は同じ。そこから一歩踏み出すことで、「新しい風景」が見えた。これが、将来への展望になり「やってやるぞ」「何かできるかもしれない」という「熱量」を生んでいるように見える。
実際、青木さんは新規事業に向けた取り組みを始めている。昨今、脱プラスチックに向けた動きが進んでいるなか、バイオプラスチックの生産・販売を考えているという。ここでは詳細を公表することは控えるが、フィリピン、アメリカ、日本のトライアングルでプロジェクトが進んでいる。
課題解決で新たにできた悩み
電子基盤製造の美山技研の大久保憲男さん(44)も新しい活路を見出している。「父親から会社を継いだ時点で積みあがていったマイナスをなんとかゼロにまで戻すことができました。それと同時に、子どもが成人して、『俺、次は何やったらいんだっけ?』と、逆に不安になってしまいました」と、大久保さん。
実は大久保さんは、八王子企業のなかでもいち早くフィリピンに出向いている。しかし、数回の訪問で止めてしまった。というのも、「行けば誰かが何かしてくれる思っていたんです。結果、何もできないから誰かのせいにしてしまう……」。
その後2年間、大久保さんは国内での事業に専念した。その成果として積年の課題を解決させることができた。
その一方で次の課題は何か? という不安が生まれた。「人生ではじめてくらい、本当に悩みました」。そして、選んだのはフィリピンを再訪することだった。目的が見えてこないなかでも、とにかく動いてみる。これによって大久保さんにも「新商品開発」という新しい道が拓けた。こちらも詳細は控えるが、インターシップ学生と共に実現に向けて取り組んでいる。
2019年、平成が終わる。しかし、いまだに日本全体で引きづっているのは、「昭和の成功体験」であるように見える。右肩上がりの経済成長といったかつての成功体験を追うのではなく、考え方や立ち位置を変えてみて、新たな成功体験を作っていくことこそが、今求められているのではないか。八王子の経営者たちの取り組みから、そう実感させられた。
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