たとえば、かつては国家の研究機関に所属し、現在は中国進出の外資系企業に務めている汪華斌氏という人は同じ9月17日、自らのブログで論文を掲載して政府の経済政策に痛烈な批判を浴びせたが、論文のタイトルはズバリ「中国のインフレは政府が作り出したものだ」である。その中で彼は、現在の中国のインフレの形成の原因を「国際経済環境の変化」や「外国からの投機資本の流入」に帰する一部の国内専門家の見解を「政府の責任逃れに手を貸す御用学者のテダラメ」だと退けた上で、「今、中国人民を苦しめている物価の高騰の原因を作り出した張本人は、まさに今の中国政府だ」と断罪したのである。
ネット論壇でよく発言したことで知られる民間経営者の芦麟元氏も同じような政策批判を行っている。彼もまた、自らのブログで小論文を掲載して、政府の行った「貨幣政策」に批判の矛先を向けている。芦氏はまず、現在の中国経済は深刻なジレンマに陥っていると指摘する。物価が継続的に上昇してインフレはますます深刻化している中で、政府はやむを得ず金融引き締め政策に転じているが、その結果として企業の経営が大変難しくなって経済全体は減速する方向へと向かっている。しかし政府はいまさら引き締め政策を止めることも出来ずに経済が落ちていくのを指をくわえて傍観するしかない。要するに今の中国経済はまさに「前狼後虎(進も地獄退くも地獄)の苦境に立たされている」と芦氏は言う。
そして彼からみれば、経済がこうした苦境に立たされた原因は、他ならぬ政府の実施した「誤った貨幣政策」であるという。つまり、政府は全人代の同意も得ず、専門家たちの意見にも耳を傾けずに「史上最大の貨幣過剰供給」を断行した結果、インフレという「怪物」が生み出されて中国経済が現在のような苦境に陥った、ということである。
「苦境」に立つ中国経済
以上は、2人の中国国内の民間人の行った政策批判だが、経済論としての彼らの批判はまったく正鵠を射たものであると言えよう。そして、民間人の彼らは臆することもなく恐れることもなく、政府の経済政策に対してそれほど痛烈にして辛辣な批判を堂々と展開していることに、筆者の私自身も大いに驚いている。
ネットが発達して市場経済が広がっている今の中国においてこそ、そして市場経済の中で生きている彼らのような「自由人」だからこそ、一時前の中国では考えられないような形での政府批判が出来るようになっているが、民間人の彼らが常時、政府の政策を観察して分析を行い、そして容赦のない批判を浴びせることは、まさに中国が古い専制体制から脱皮しつつあることの証拠であり、未来における大いなる変化の前兆でもあろう。
彼らが批判している政府の政策は今では主に経済分野のものに限定されているが、いずれ、政治・社会の領域に広がっていくのであろう。そしてその時こそは、中国にとつての「革命到来」の時代となろう。
もう一つ、全人代の高官から民間の経営者までの人々が政府の経済政策に対する無遠慮な批判を展開していることはまた、こうした経済政策自体の破綻を意味することであろう。まさに上述の芦氏は指摘しているように(あるいは筆者の私自身も指摘しているように)、貨幣の過剰供給=札の濫発によって支えられてきた中国の経済成長はすでに破綻を来して深刻な「苦境」に立たされている最中である。そしてそれもいずれか、破滅の結末を迎えることになるのであろうが、その後には、中国はまさに変革と激動の「乱世」になっていくのであろう。
私自身としては、それを見るのがまさに楽しみである。
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