精神障がい者の
仕事を増やす
最後に、物流の山九(さんきゅう)の特例子会社で障がい者雇用を専門にしているサンキュウ・ウィズ(東京都中央区)。山九が50%を出資、残りは山九グループが出資している。現在54人の障がい者を雇用している。内訳は精神障がいが約半分で、知的障がいが3割、残りが身体障がいという構成。16年4月から社長を務める湯本憲三氏は「3年後には雇用者数を80人にまで増やしたい。障がい者の力を生かせるように、中でも精神障がい者ができる仕事を増やしたい」と意気込む。
主な仕事はビル内の清掃、廃棄文書の回収と裁断業務、コピー複合機の消耗資材の補填(ほてん)といったこれまでの仕事に加えて、パソコンに関連した事業を積極的に導入している。グループ会社で新規導入するパソコンやスマートフォンに基本ソフトを設定するキッティング作業から、リース期間終了で持ち込まれたパソコンのデータ消去まで、PCライフサイクルに関わる仕事をこなしている。
障がい者が、迷わずに作業ができるようにパソコンの作業手順書が分かりやすく書いてあり、1台のパソコンで290項目あるすべての作業を3回チェックすることになっている。分解作業ではネジの配置を間違わないように、磁石でネジがボードから外に出ないようにするなど細かい工夫がしてある。14年に消去作業を開始してからパソコンの業務でクレームは一件も発生していないというから驚きだ。定着率は高く、過去3年間で辞めたのはわずか1人だという。
昨年10月2日にオープンしたのが社内カフェだ。障がい者6人が二つのシフトを組んで仕事をこなしている。店長と副店長は健常者だが、常に3人の障がい者がカフェの店員として手作りドリップサービスから会計までを担当する。1日の売り上げがオープン前の計画より130杯以上も多く、11月下旬には388杯にまで伸びて、サービスメニューも増えている。
その中でうれしい「事件」が起きた。12年に入社してから清掃、社内売店、社内メール集配と職場を移ったものの元気のなさが目立っていた小林勝弘さん(41歳)。精神障がいで投薬治療中ということもあり休みがちだった。ところがカフェ事業が始まると、自分が変われるチャンスだと思い、「カフェに行きたい」と自ら手を挙げた。日頃の小林さんを見てきた周りの管理職の多くが懐疑的だったが、本人の希望を通した。
すると小林さんの態度が一変、率先して仕事をこなすようになり、仕事中に笑顔が見られるようになった。「カフェで働いている皆が『仲間』という感じがして、お互い補い合っている気がする」と言う。この変化には小林さんの母親も驚いたようで、「『冬眠』から覚めたくらい、毎日が充実している」と話す小林さんの言葉に嘘(うそ)はない。精神障がいの場合、人との付き合いが苦手なことが多いといわれるが、小林さんは始めてみると、サービスの仕事にやりがいを見いだしてリーダーとして活躍している。
勝どきにある山九本社ビルの屋上に上がると、晴海で建設中のオリンピック村がよく見える。湯本社長が「うちのカフェで経験を積んだ社員が、オリンピック村で世界から日本に来た選手にカフェをふるまうことができたら素晴らしい」と語るが、その可能性は十分にあるのではないか。
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