2024年12月6日(金)

Wedge REPORT

2018年11月17日

 長崎県対馬は、島国で構成されている日本列島の中で、本州、北海道、と続く島で10番目の大きさを誇り、淡路島よりすこし大きなサイズだが、韓国まで約50kmであるため、北部の海岸から眺めると対岸に韓国がすぐそこにある感じで、実際、人口3万人のところに韓国から年間36万人が訪れるという。

対馬で開催された福祉避難所を考えるワークショップ

 10月を迎え涼しさが増した対馬において、筆者は対馬市社会福祉協議会のお招きで「福祉避難所を考えるワークショップ」を開催した。おそらく、日本でも初めてに近いのではないかと思われる、このワークショップには社協関係者のみならず、地域の消防署、NPO、行政職員など、多彩な地域の担い手が参加して、関心の高さを示していた。実は、長崎県は災害多発県で豪雨被害などもあり、対馬は台風の通り道になることもしばしばある地域だ。事後に回収したアンケートを拝見していても「福祉避難所という言葉は初めてきいたが、何かやらなければという気持ちになっている」といった感想が多数を占めていた。

 福祉避難所とは、災害時に、一般避難所では避難生活が困難な、高齢者や障害者、妊婦など、災害時に援護が必要な人たち(要配慮者)に配慮した避難施設として市町村によって指定されている。耐震やバリアフリーの構造を備え、介助員を置くことなどが条件で、老人ホームや障害者療護施設などが指定されていることが多いが、福祉避難所は必要に応じて開設される二次的避難所であり、最初から福祉避難所として利用することはできない。

 また、内閣府令で「災害が発生した場合において要配慮者が相談し、または助言その他の支援を受けることができる体制が整備されること」「災害が発生した場合において主として要配慮者を滞在させるために必要な居室が可能な限り確保されること」と基準が定められていることから、対馬のように、地域の社会福祉協議会そのものが指定されている場合もある。

福祉避難所の要配慮者問題って何?

 福祉避難所の対象者として想定されている「要配慮者」は、「災害時において、高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者(妊産婦、傷病者、内部障害者、難病患者等)」と定義されているが、これらを原則としつつも、地域や被災者の被災状況に応じて、さらに避難生活中の状態等の変化に留意し、必要に応じて適切に対処する必要があるとされている。

 福祉避難所の事前指定やその準備においては、これらの人々を対象として備えておく必要があり、一般的な避難所では生活に支障が想定されるため、福祉避難所を設置し、受け入れ、何らかの特別な配慮をする必要があるのだ。

 福祉避難所への入所は一般的には次のようなステップを踏むことになる。

  1. 災害発生時、まず身の安全を確保して、地方自治体が指定する一般避難場所に避難。一般避難所で自治体職員等が避難者の身体状態や介護などの状況を考慮し、福祉避難所への避難対象者の優先順位を決定。福祉避難所は避難スペースの確保、スタッフの配置など受け入れ態勢が整った段階で開設され、決定された避難対象者を受け入れる。
  2. 一般避難所から福祉避難所への移送は、避難対象者の家族や一般避難所の運営スタッフなどが行うことが原則。介護などを必要とする場合、その家族を含めて福祉避難所への避難が可能。

 なお「災害時における要配慮者を含む被災者の避難生活場所については、在宅での避難生活、一般の避難所での生活、福祉避難所での生活、緊急的に入所(緊急入所)等が考えられる」とされているので、すべてが福祉避難所にこられると想定されているわけではない。しかしながら、要配慮者であることから、発災時、避難所に辿り着いていない方に自助を求めることは困難であることが容易に想像できる。

【災害時における要配慮者問題】

  • 住民の自助を求められても、それがままならない高齢者
  • 豪雨災害などでも犠牲者に占める高齢者の割合が大きい
  • 介護ケアを抱える家族も避難所にはいけない
  • 災害進展期には、行政も(職員も)被災した中で、対応に限界がある

福祉避難所なんて知らなかった!

 しかしながら、災害大国ニッポンで災害が多発する中、現状はけっしてうまく機能しているとは言えない。まず障害を持った方々は、避難指示が出ても、避難しなかったという西日本豪雨での調査結果が出ている。http://www.mirairo.co.jp/press_release/post-11602

また新聞各紙でも、災害弱者の課題は報道されつつある。

◆被災3県で視覚障害の避難者6人のみ 災害弱者、課題浮き彫り◆

西日本豪雨で大きな被害が出た岡山、広島、愛媛の3県で、自治体の避難指示などに従って自宅から避難したことを確認できた視覚障害者は6人だったことが14日、共同通信の取材で分かった。3県では、計約1410人が視覚障害者協会などに所属するが、多くの人が自宅にとどまったとみられ、災害弱者への避難誘導が課題として改めて浮かんだ。(2018.8.14共同通信)

 また、そもそも福祉避難所として指定されている施設は、敬老施設であったりするため、普段からもともと入所者を抱えているところであるだけに、たくさんの被災者を受け入れることができない。また災害対応の中では、限られた人員を確保することすら難しく、そんなに多くの対応もできないというのが実情なのだ。つまり、福祉避難所として指定はされていて、収容できる人員は少ないが、周囲には告知されていないし、避難指示で逃げない方々が多いし、殺到していないため、それで済んでいるといった、とても脆弱な状況となっている。

以下、朝日新聞からの引用である。

◆知らなかった福祉避難所◆

9月6日未明に最大震度7の揺れが襲った北海道。(中略)今回の地震で、札幌市は福祉避難所を2カ所開き、災害対策本部の場で説明した。避難所に来た障害者2人に介助が必要だったためだが、HPでは公表しなかった。「福祉避難所の存在すら知らなかった」と不満を漏らす。

内閣府は福祉避難所の情報を広く周知するよう求めており、市の対応をめぐって議論も起きた。市の担当者は「健常者も含めて殺到すると、受け入れができなくなる恐れがあった」と話し、内閣府に一連の経過について問題がないか照会。「今後、内部で検証したい」としている。

注目集めた「熊本学園モデル」

2016年4月の熊本地震で、本震2日後の18日時点で開設された福祉避難所は10カ所。126人の要配慮者が身を寄せたが、当初は自治体が場所を公表しないなど、混乱が続いた。一方、福祉避難所に指定されていなかった熊本学園大学(熊本市)は、障害者60人を含む被災者約750人を受け入れた。その傍ら、教員らが困り事を聞き取り、家の片付けなどを社会福祉学部の学生たちが手伝った。この手法は「熊本学園モデル」と呼ばれ、注目を集めた。

(中略)

内閣府も13年から、▽小学校など一般の避難所でも特別教室などを要配慮者向けの「福祉避難室」とする▽車椅子が通れる通路幅を確保する——などを呼びかけてきた。101の福祉避難所を指定している福岡市は今年4月、432ある一般の避難所にも原則、福祉避難室を設けることを決めている。(千種辰弥、布田一樹、竹野内崇宏)

【開設した経験から出てきた課題】

・福祉避難所に指定した施設が被災したり、制度の周知や運営のノウハウ不足(熊本県)

・自宅にこもりがちになる人への情報提供(岡山県)

・道路の通行止めで職員の出動が難しくなり、施設の運営などに苦慮(高知県)

【開設の周知に関して】

・優先度が高いと言えない人が大勢避難し、高い方々が利用できなくなる懸念(複数の県)

・要配慮者本人や支援者に限定して周知するといった工夫を市町村に求めている(岩手県)

【施設確保への取り組み】

・県総合防災訓練で避難者の受け入れやスクリーニングを住民参加型で実施(徳島県)

・市町で実施する福祉避難所訓練への補助(兵庫県)

【国への要望】

・運営に必要な人員の派遣調整システムの構築(徳島県、熊本県)

・市町村内の施設だけでは対応できず、広域的な取り組みが必要(和歌山県)

・指定に必要な施設整備、開設・運営にかかる費用への補助(多数の府県)

朝日新聞2018.10.28

https://digital.asahi.com/articles/ASLBX521HLBXUTIL00V.html?_requesturl=articles%2FASLBX521HLBXUTIL00V.html&rm=703

(以上引用終わり)

 福祉避難所については、自治体側も存在を知らせていなかったり、一般の人々も知らなかったりというのが伝わってくる。


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