2024年4月20日(土)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2019年1月21日

マイナスとプラス要因

 もし2回目の米朝首脳会談で、「核廃棄の行程表」を含んだ具体的な成果が出なかった場合、トランプ大統領は議会民主党や2020年米大統選挙に出馬する候補に、「攻撃材料」を与えてしまうことになります。同大統領には、2回目の首脳会談が再選の選挙において、マイナス要因になり得るわけです。

 一方、プラス要因も存在します。具体的な成果が出れば、支持率の向上が期待できます。

 米世論調査会社ギャラップが実施した最新の調査によれば、トランプ大統領の2年目の平均支持率は40.4%でした。最も高い支持率は、1回目の米朝首脳会談直後の45%です。

 米公共ラジオ、米公共放送及びマリスト大学(東部ニューヨーク州)による共同世論調査(2019年1月10-13日)をみると、30%の登録した有権者が2020年米大統領選挙でトランプ大統領に「必ず投票する」と回答しました。それに対して、57%が同大統領に「決して投票しない」と答えています。

 さらに、共和党支持者の44%が、来年の同党大統領候補指名争いでトランプ大統領にチャレンジする候補が出馬することを「望んでいる」と回答しました。一方、45%が「望んでいない」と答え、実に拮抗しています。

 トランプ大統領が以上の調査結果を把握していれば、米朝首脳会談で支持率アップを狙った演出を行うことは確かです。

日本はどう対応すべきか?

 昨年11月の米中間選挙における支持者を集めた集会で、トランプ大統領は「日本の上空にはミサイルが飛ばなくなった。米国人の人質も解放された。北朝鮮は核やミサイルの実験を行っていない」と、成果を繰り返し強調していました。あたかも北朝鮮の核問題は、7、8割は解決済みであるかのような口調で、支持者に語っていたのです。しかも、北朝鮮の非核化は「急がない」というのです。

 しかし、拉致問題を抱えた日本の立場は異なります。日本にとって、拉致問題解決は急務であることはいうまでもありません。

 もちろん日米の連携は必要なのですが、日本はトランプ大統領のペースで拉致問題解決を目指さないほうがよいでしょう。というのは、同大統領はこれまで述べてきた「国境の壁」建設、連邦政府機関の一部閉鎖、2020年大統領選挙に加えて、ロシア疑惑といった様々な問題に直面しているからです。

 トランプ大統領には「行動原理」が存在します。「自分の名誉にかかわる身近な課題を最優先する」傾向があります。「国境の壁」建設が実現すれば、トランプ大統領のレガシー(政治的功績)になります。連邦政府機関の一部閉鎖の期間は、クリントン政権のそれを抜き、過去最長になり、不名誉な記録を更新しています。トランプ大統領の行政管理能力も疑われています。

 ロシア疑惑の捜査チームを率いるロバート・モラ―特別検察官による何らかの報告書が、早ければ2月に出るといわれています。仮に前回の大統領選挙におけるトランプ陣営とロシアとの共謀、司法妨害、選挙資金法違反などの証拠が示され、「黒」となれば、下院民主党は弾劾の発議を真剣に検討するでしょう。

 うえで説明した諸問題は、すべてトランプ大統領の名誉と直結しているので、同大統領はそれらを最優先させることになります。

 2回目の米朝首脳会談で拉致問題を取り上げてもらうようにトランプ大統領に働きかけるのは当然ですが、日本は次の2年間、この問題により主体的に動くべきでしょう。

  
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