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2019年1月25日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

ロシアは歴史を欺くな

 誤解を恐れずに言えば、「2島返還」などという将来に大きな禍根を残す決着が見送られたのはむしろ幸いだったとみるべきかもしれない。

 北方領土に関する日本政府の戦後一貫した方針はいうまでもなく「4島返還」だ。国後、択捉、歯舞、色丹は歴史的経緯に照らして、日本固有の領土であり、かつて一度も他国の領土となったことはない。旧ソ連は第2次大戦末期、日ソ中立条約を無視して日本に参戦、わが国がポツダム宣言を受諾した後の1945(昭和20)年8月18日から9月5日までの間に、どさくさにまぎれて、国後、択捉、色丹及び歯舞群島の4島を不法に占拠した。こうした「不法占拠」の事実は、外務省発行の公式パンフレット「われららの北方領土」に詳しい。「第2次大戦の結果ロシア領になった」というラブロフ発言など、歴史を誣いること甚だしい妄言といわざるをえない。

 そもそも「2島引き渡し」が謳われた1956年の「日ソ共同宣言」にしても、付随して交換された松本俊一全権とグロムイコ外務次官(いずれも当時)の書簡に、「正常な外交関係を再開した後に領土問題を含む平和条約交渉を継続する」と間接的表現ながら、国後、択捉の返還交渉に言及されている。宣言が歯舞、色丹両島の引き渡しだけに限っている、と解釈するのは完全な誤解であり、そうでなければ、解決を急ぐために故意に事実関係を無視しているかだろう。

国後、択捉断念は主権放棄に等しい

 歴史的経緯から明らかなように、国後、択捉両島は不法占拠された日本固有の領土であり、これら2島の返還を自ら断念することは、主権の放棄に等しい愚挙だ。いや愚挙という言葉で済ますにはあまりに重大な結果を招くだろう。「不法であっても、居座ってさえいれば、日本はいつかあきらめる」という誤ったメッセージを他国に与え、尖閣諸島、竹島問題で中国、韓国にロシアと同じ対応を取らせる余地を与えかねない。

 松本―グロムイコ書簡を含め日ソ共同宣言を正しく解釈して歯舞、色丹を先行して返還させるというならいい。国後、択捉の主権が日本にあることを明確にロシアに認めさせ、返還時期、方式について継続協議するという方法なら、将来の完全返還に望みを託すことも可能だからだ。このアイデアは宮沢内閣時代の1992(平成4)年に先方に伝えた経緯がある。

 しかし、安倍首相は「私とプーチン大統領の手で必ずや終止符を打つ」と言っているのだから、やはり「2島返還」または「2島+アルファ」で最終決着をつける考えなのだろう。

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