2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2019年1月25日

22日に行われた日露首脳会談(REUTERS/AFLO)

 領土問題で進展がなかったことには大いに失望した。国益を損なう安易な妥協が避けられたことには安堵した。今月22日、モスクワで行われた安倍晋三首相とプーチン大統領との会談は、北方領土問題に関して、現状の打開をもたらすには至らなかった。日本側が「2島返還」へと大きく舵を切る姿勢を鮮明にしているにもかかわらずだ。ロシア側が日本の方針変更に何の関心ももっていないことが、これではっきりした。6月のG20(20カ国・地域首脳会議)までに決着させるという政府の目標実現は遠のいたというべきだろう。

首相発言もトーンダウン

 最高気温が氷点下15度、凍えそうなほどのモスクワ、クレムリン(大統領府)で行われた両首脳による話し合いは、続くこと3時間。プーチン氏は、安倍首相を自らの執務室に招き入れ、父親の写真をみせながら、その思い出を語るなど、精一杯のサービスにこれつとめたという。

 しかし、結果はどうだったか。元島民の3回目の空路墓参、4島での共同経済活動促進などで合意した程度で、そればかりか、両国の貿易額を数年間で1.5倍の300億㌦に拡大することを日本側は約束させられた。

 会談終了後の記者会見で首相は、領土問題での進展があったかについて詳しく説明することを避けた。それどころか、「戦後70年以上残された問題の解決は容易ではない」と不機嫌な表情を隠さなかった。昨年11月14日、シンガポールでプーチン氏と会談した際、「残されてきた課題を次の世代に先送りすることなく、私とプーチン大統領との手で必ずや終止符を打つ」と見得を切ったことにくらべると、大きな違いだ。

 プーチン大統領も、このところロシア側がみせている強硬論に同調するような発言こそは避けたものの、「両国にとって」受け入れ可能な解決策をみいだすために、今後も長く綿密な作業が必要だーと強調。具体的事業に言及しながら、領土問題への関心よりも、日本からの経済協力を引き出すことが先決と思惑を繰り返しにじませた。

 東京での留守役、菅官房長官も、ことここにいたっては楽観的な見通しを放棄せざるを得なくなった。「すぐに結論が出るようななまやさしい問題ではない」(1月23日の記者会見)と厳しい認識を披瀝、交渉が長期化する見通しを示唆した。

「2島返還」は大胆な転換だったが

 今回の首脳会談をめぐって、昨年秋から暮れにかけて、日本国内では「2島+アルファ」という方式で領土問題が大きく進展するかもしれないという楽観的な観測がなされていた。歯舞群島、色丹島の返還を優先させ、国後、択捉については見送り、両島の経済活動で日本を優遇するというのが、この考え方だ。従来の政府の方針からの大きな転換になるだけに、あくまでも「4島返還」を求めるべきという立場の人たちを中心に疑念と論議を呼んでいた。

 「2島+アルファ」が浮上したのは、昨年11月、シンガポールにおける両首脳の会談だった。戦争状態の終結、国交の正常化と歯舞、色丹両島の日本への「引き渡し」が明記された1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を「交渉の基礎」とすることで合意し、それに続く12月のブエノスアイレスでの会談で、河野、ラブロフ両外相をそれぞれ交渉の責任者とすることが決まった。

 安倍首相はシンガポール会談直後の11月26日の衆院予算委員会で、「私たちの主張をしていればいいということではない。それで(戦後)70年間まったく(状況は)変わらなかった」と述べ、「4島返還」要求を放擲して「2島返還」へと方針を転換することを事実上明らかにした。

 こうした動きを受けて、年明け早々の2019年1月14日、河野外相がモスクワでラブロフ外相と会談したが、その過程で、日本側の方針変更にもかかわらず、ロシア側はむしろ以前にも増して強硬、かたくなな姿勢にでて、従来の姿勢に何ら変化のないことを鮮明にした。ラブロフ外相は、河野外相との会談で、「南ク―リル諸島(北方領土のロシア側呼称)は第2次大戦の結果、ロシア領になったことを日本側が認めない限り、交渉は進展しない」という不当な歴史認識を繰り返す厚顔ぶり。安倍首相が、北方領土返還の場合、ロシア人住民に帰属の変更を理解してもらう必要があるという旨の発言をしたことに対しても「受け入れがたい」と強く非難した。

 こういう状況のなかで今回のモスクワ会談。成果をみずに終わったことで、はっきりしたのは、「2島+アルファ」という日本側にとっては大きな方針転換であるにもかかわらず、ロシア側はこれに応える意志がまったくないということだ。2島はもちろん、1島いや1片の土地、石ころひとつすら返す意志を持たないだろう。

 返還に反対するロシア国民による集会がモスクワにまで拡大したなど国内事情、世論の動きをプーチン政権が気にしているのかもしれないが、日本側にとっては、いわば熱意に冷や水を浴びせられた格好になったというべきだろう。

 「解決は容易ではない」と首相発言が交代したのも、だれよりも自身が先方の硬い姿勢を感じ取ったからではないか。

 日露外相会談翌々日の1月16日付、産経新聞は社説に当たる「主張」で、「〝2島〟戦術破綻は鮮明」という見出しを掲げ、これまでの基本方針を安易に放擲したことに苦言を呈し、「4島の返還を要求するという原則に立ち返るべき」と説いた。その通りだろう。


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