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2019年1月25日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

「70年間変わらず」は事実か?

 安倍首相は過去の交渉をかえりみて、「70年、変わらなかった」といっている。確かに解決には至らなかったが「変わらなかった」というのは事実だろうか。

 冷戦時代、「領土問題は存在しない」というけんもほろろのロシアに対して、日本政府は粘り強く、本当に粘り強交渉し、少しずつではあるが事態を進展させてきた。

 1973(昭和48)年の田中角栄首相とブレジネフ・ソ連共産党書記長(いずれも当時)の会談で、「第2次世界大戦からの未解決の諸問題」に「4島」が入ることを先方に初めて認めさせ、その後、巻き返しにあいながらも、1993年(平成5)年には、4島を明記して帰属の交渉を継続するという東京宣言(細川護煕首相とエリツィン大統領=いずれも当時)にこぎつけた。かつて旧ソ連は「北方領土」という言葉を口にするだけで無視する姿勢を取ってきたことを考えればまさに隔世の感がある。「70年変わらなかった」という発言は、こうした過去の努力への敬意を欠くと言わざるを得ない。いま「4島返還」を断念すれば、過去の労苦は何だったのかということになってしまう。

国民に空しい期待与えるな

 これまた、誤解を恐れずに言えば、主権を放棄して嘲笑を浴び、近隣諸国につけ込む隙を与えるよりも、時間がかかってもあくまでも本来の目的「4島返還」をめざすべきというのが取るべき道ではないか。プーチン以後の政権の登場を待ってロシアの国内事情が変化するのを待つのもひとつの方法かもしれない。

 政治家の胸の内など想像すべくもないが、口さがない人たちは、首相の意図について憶測をめぐらす。2島返還を有利な材料にして、衆参ダブル選挙に打って出るとか、いずれ憲政史上最長の在任期間を迎えるから、後世に名を残す「遺産」作りに腐心しているーなどだ。

 むろん、首相が個人的思惑や〝政局判断〝〟から領土問題の解決を急ぐなど、あろうはずがない。意見を異にする人がいるとすれば、政策選択の問題だろう。解決は簡単ではないと知りながら、中国牽制のため、ことさら日露関係に進展があるかのように装う深慮遠謀も首相のハラにあるのかもしれない。

 ともあれ、「2島返還」による早急な決着は困難になった。首相はじめ外交の衝にあたる政治家、政府高官は、とりあえず国民に交渉の現状を率直に説明、そのうえであらたな解決策を模索し、広く協力を求めるべきだろう。国民に空しい期待、希望を持たせることほど罪なことはない。

  
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