2022年12月4日(日)

インド経済を読む

2019年1月29日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

「ブラックマネー」は撲滅できたのか?

 まず1つ目の「ブラックマネーの撲滅」について説明しよう。

 インドでは脱税や賄賂が横行している。そのため、不正な手段で貯めたお金を多くの人が「現金」の形で、家に貯め込んでいると言われる。

 地下経済は中国でも問題視されているがインドも同様で、その規模は推定でGDPの2割~4割とされている。こうした政府の統計に入らない取引は当然銀行決済を通さず現金で行われ、結果として巨額の現金が各人の手元に貯め込まれることになる。さらに、インドの英字紙「エコノミック・タイムズ」の報道によれば、インドで適正に自分の所得を申告し個人所得税を払っているのは全成人年齢のたった1.5%に過ぎないという。彼らに言わせれば「税金なんて払ったところで有効に使われない。働きもしない公務員の懐に入るだけ。それならどんな理由をつけてでも払いたくない」というのが本音だ。

 自宅に500万ルピーを貯めこんでいた高齢女性も、何らかの非合法な手段で蓄財していた可能性がある。なぜなら合法的な手段で取得した現金であれば、25万ルピーを超える場合であっても、それだけの現金を所持している理由を銀行に説明することで、新紙幣への交換が認められていたからである。

 この高額紙幣使用禁止事件は、そういった不正な行為(脱税や賄賂)で長年、税務当局が把握できずに各人の手元に貯め込まれてきたブラックマネーを一網打尽にしようという狙いがあったとされている。ブラックマネーはインド政府が恐れるテロ活動の資金になる可能性もあるからインド政府の真剣さも違うというわけだ。

 しかしながらこの高額紙幣の使用禁止では「ブラックマネーの撲滅」において期待した効果を得られなかったと言われている。なぜなら、実際に不正な手段でお金をため込んだ人達は知恵を絞り様々なルールの抜け穴を探し、迅速にそれを実行したからだ。

 例えば、富裕層が貧困層を大量に雇い、彼らの25万ルピー枠を使って口座に入金、その後、現金を引き出させて手数料を渡したうえで新紙幣を手に入れる、またお寺への寄付を偽装してお寺が集まった旧紙幣を銀行でまとめて新紙幣に交換(寺には寄付金がたくさんあるので大量の現金を持っていても怪しまれない)、その後、お寺が一割の手数料を徴収して新紙幣を現金で戻すなど、様々な抜け道が実行されたという。

 一方で希望が見いだせたのは、この政策に対する市中の評価である。「ブラックマネー撲滅」という目的も相まってか、これだけの混乱を引きおこしたにもかかわらずこの政策に対する評価は比較的良好。さぞかし怒っているだろうと思い近所や仕事で会うインド人にこの話題を切り出してみたが、「悪い奴らのお金が丸裸になるんだったらいいじゃないか」と極めて我慢強く、かつ冷静な意見が圧倒的だった。おそらく政府は、今後もブラックマネ―撲滅の二の矢三の矢を放つだろうが、そのために必要な政策に対する支持は固いようだ。

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