2022年11月27日(日)

インド経済を読む

2019年1月29日

»著者プロフィール
閉じる

野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

「電子決済」は普及したのか?

 では、もう一つの目的である「電子決済の普及」はどうであったか?

 先述のようにインドは現金決済による脱税や、現金受渡しによる賄賂の授受が多く、政府は以前よりその対策として「電子決済の導入」を推奨してきた。電子決済を普及させることでビジネスの透明化を図り、脱税や賄賂の撲滅を狙っていたのである。具体策としては、売上を電子決済に切り替えた小規模自営業には、本来義務である会計監査を免除するなどの優遇措置を取っていた。

 そんな政府の期待通り、高額紙幣の使用禁止事件を機に、「電子決済サービス」の業界が一気にビジネスを拡大した。電子決済サービス大手の「Pay TM」の発表によれば、アプリのダウンロード数が事件翌日だけで200%も増加するなど、驚異的な伸びを示したという。商店はもとより、小さな屋台でもあっという間に電子決済が使用可能になったことは、電子決済後進国と言われる日本から見れば驚きである。

 もし日本でこのような政策を急に実施すれば、支払いや決済ができない人たちが街に溢れ、国全体が混乱に陥り経済への悪影響は回避できなかっただろう。日本よりも平均年齢がぐっと若いインド(日本:48歳、インド:28歳 ※国連の2020年予想値)では結局、大きな経済的混乱は生じなかった。言い換えると「政策変化やフィンテックへの対応力の高さ」を見せつけたとも言える。

 だが、この「電子決済の普及」も完全に達成されたわけではない。電子決済の便利さよりも、自分の決済情報をガラス張りにされることへの抵抗はやはり強く、事件から数カ月の間は現金取引が全取引数の6割程度にまで減少したが、2年経った現在は、すべての取引に占める現金取引の割合は事件前の水準である9割弱にまで戻ってしまっているからだ。ダウンロードされた電子決算アプリも長い間使われなくなってしまっているようだ。

 総括すると、政府の目的そのものは達成できなかったかもしれない。ただ、インド国民は必要であれば日本では考えられないダイナミックな「うねり」を市場に生じさせる柔軟性を有していることを実証した。

インド市場の本当の魅力とは?

 インド市場の魅力は、13億の人口という「量」を抱えていることだけではない。今後も世界の主要産業として飛躍が期待される「ITサービス」を即座に取り込むことができる国民の「質」も魅力と言える。1億を超える人口を抱えているものの、そのマス部分である高齢者層が未だにスマホやパソコンに精神的抵抗を感じている日本とは、この「質」の面で大きな差があるのだ。

 長い間、成長率で中国に差をつけられ、人口の多さばかりがクローズアップされがちだったインド市場ではあるが、2年前に起きたこの事件は、新しいサービスに対する順応性の高さという新たな価値を我々に見せつけてくれたと言える。インドへの進出を考えている日本企業、とくにIT企業は、このインド市場の潜在力を活用することも視野に入れるとよいかもしれない。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

新着記事

»もっと見る