暴言ドゥテルテ大統領はなぜ好かれる?
私の滞在中(2018年7月~2019年1月にかけて訪問)にもドゥテルテ大統領の暴言が数々あり、現地紙を賑わしていた。マスコミにはある意味暴言は新聞を売り、テレビの視聴率をあげるプレゼントでもあろう。私が覚えているだけでも、
「カトリックの神父の90%はゲイである」(カトリック教会は強圧的な麻薬戦争に反対の立場)」
「カトリック神父など殺してしまえ」
「美しい女性がいる限り、レイプはなくならない」
「高校時代にメイドの部屋に忍び寄って、パンティの中に手を入れて触ったことがある。メイドが目覚めたので、部屋を出た」
女性団体は大統領に相応しくないとして辞職を求めているし、反対派の中には、精神鑑定を受けたほうがいいと訴えるものもいる。
一方、麻薬との戦いは続いている。
「シャブの精製所を発見・検挙 マニラ市内 サンフアン」
「シャブ警察らを逮捕」
「シャブに今後かかわりそうな政府高官を更迭」
麻薬がらみの重大犯罪は、マニラ港(Manila International Container Terminal)で発覚した大量シャブであろう。税関の高級官吏や麻薬捜査の警察官がグルになって密輸したのである。
「355キロの密輸シャブ(4億8000万円相当)がマグネット式つり上げ機の中から(magnetic lifters)発見された。一方、マニラ南部のCaviteの倉庫にも中身が空の4つのマグネット式つり上げ機(magnetic lifters)も発見。だがすでに中身のシャブは取り出されていて、後のまつり」
輸入した5つマグネット式つり上げ機の内部にシャブを隠していたのである。総計、1775キロ(24億円相当)にもなる。もともと日本が発明したシャブは、今は中国で製造され、マレーシア、ベトナム、台湾などを経由してフィリピンに密輸されるという。
ドゥテルテ大統領は麻薬との戦いを宣言している手前、身内ともいえる政府高官も解雇し、裁判所に送る。これはかってのフィリピン政府には見られなかったことだろう。最近、メキシコの元大統領Peña Nietoが麻薬カルテルの親分Chapo Guzmánから何百万ドルの賄賂を受け取っていたという報道があった。ドゥテルテ大統領に関しては、退職後もそのような不名誉な事実は見つからないに違いない。
先日、ビサヤ諸島出身でバルセロナに叔母のいる、スペインの血筋を引く女性と食事をする機会があった。彼女はこういった。
「少し前にもマカティのナイトクラブが閉鎖されたわ。薄暗くてそこでドラッグが売買されていたの。ドラックにかかわるお店が閉められるのはいいことよ。大統領、もちろんドゥテルテがいいわ。彼にはこんな逸話がある」
「ダバオの知事の時代には夜中に変装して流しのタクシーのドライバーをしていたの。そのとき、数人の学生が酔っぱらって乗ってきた。『こんな夜遅く、何をやっているだ?』、と聞いたら、『飲み歩いている』っていう答え。で、そのまま警察に彼らを連れて行った。そして、電話をかけて彼らの親を呼んだの。ダバオには確か、『16歳未満の夜9時以降の夜間外出禁止』っていう厳しい条例があるわ」
ドゥテルテが3期25年も知事として君臨したダバオはまれにあるイスラム過激派のテロを除けば、東京と同じほど治安のいい街である。私は前日に戒厳令下のミンダナオ島にあるこのダバオから戻ったばかりだった。
まもなくイスラム系住民に広範な自治を与えるバンサモロ基本法の是非を問う住民投票がある(1月21日と2月6日の2回)。
「心配なのは、もし大統領がドゥテルテから他の人に変わったら、元のフィリピンに戻ってしまうんじゃないかってことね」
彼女はやや不安気にいった。
数々の暴言があっても、ドゥテルテ大統領の支持率は76%である(2019年1月14日付け 日刊まにら新聞)。すなわち、ストア派の哲学者・作家のセネカの次の言葉が当てはまる政治家なのである。
―わが言を聞け、猥なり。わが行いを見よ、正し-
追記:1月27日朝、スルー州ホロ島でカトリック教会のミサ中に爆発。さらに、駐車場で2発目が爆発した。20人が身体をばらばらに吹き飛ばされて殺され、100人前後が負傷した。アルカイダ(Al-Qaeda)系のイスラム過激派「アブサヤフ(Abu Sayyaf)」の仕業と疑われている。スルー州だけは住民投票でバンサモロ基本法への反対票が賛成を上回っていた。
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