上記声明からは、米国は、中国による知的財産権の侵害、補助金や国営企業、米国企業への技術移転の強制、中国による関税および非関税障壁、貿易赤字といった点を問題視する、従来の姿勢を維持しているように見える。すなわち、中国に対して構造的な改革と対米貿易黒字の削減を求めていくということである。
中国側が提示した譲歩は、米国のエネルギーや農産物など12分野での輸入拡大、米国の対中投資受け入れ拡大などにとどまるようである。米国との隔たりは大きい。上記声明も「前進はあったが、やるべきことはまだ多い」と明言している。1月29日付けワシントン・ポスト紙の社説‘Trump sparked a crisis with China. Now he should make the most of it.’は、中国が得意とする買い物攻勢に幻惑されてはならず、協議は中国経済の構造改革に糸口を付けるものでなければならないことを主張している。当然そうあるべきである。
しかし、中国側は米中首脳会談を提案し、トランプもこれに前向きのようである。中国側は経済が急失速しており、トランプの方は2020年の大統領選挙を控え貿易面で何らかの得点を挙げたいと考えているものと思われる。中国から何らかの具体的譲歩を引き出し、それをトランプの駆け引きの勝利と宣伝し、米中の冷戦の一時的休止がもたらされる可能性は否定できない。
ただ、仮に首脳会談が開かれ短期的に妥協が成立したとしても、長期的には米中の経済競争が終わることはないであろう。中国との対決は貿易から始まり、今や先端技術における覇権争いをはじめ、全面対決の様相を示している。米中の対決が先端技術にまで及んでいるのは、米国が、中国の挑戦は米国の卓越した地位を脅かしているとの危機感を抱いているからである。例えば、中国は、通信速度が現行の4G携帯電話の100倍となる、次世代の社会基盤となると見込まれる5G技術で、米国に引けを取らない開発をしていると言われる。
そういうわけで、米国は先端技術における中国の台頭の「封じ込め」にかかっており、中国が先端技術の開発を国策として推進する「中国製造2025」を非難するとともに、中国の先端技術製品の調達を禁止し、同盟国に対しても同様の措置を取るよう要請している。米中の経済対立は、構造的に非常に根深いものである。
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