2022年8月13日(土)

使えない上司・使えない部下

2019年2月15日

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ジャイアンツではじめて、試合に出れない苦しさがわかった

 川上さんは、待つ人なんです。たとえば、長嶋はそのうちにわかるだろうって待ちます。僕が選手たちから聞いた話なんですけど、(巨人でショートだった)広岡(達郎)さんが現役の頃、川上さんが(巨人の)コーチになられたときに、川上さんが言ったことを全然、聞かなかったらしいんです。その後、広岡さんが広島のコーチになられたときに、はっと気付いたらようなんです。

 教える立場になったときに、選手が(広岡さんの)指示や助言を聞かない。巨人のときに、俺が川上さんにやったようなことを今、目の前で選手たちはしていると思ったらしい。広岡さんは、川上さんに謝ったようなんです。「巨人の頃には、川上さんの言うことを聞かなかった。それが間違いでした」と。それを認めることが、すごいじゃないですか…。自分がしていたことが間違いだと気付いたときに、川上さんのところへ謝りに行く。これは、なかなかできない。広岡さんは、すばらしい人だったんだな。川上さんも、広岡さんを受け入れたんでしょうから。私が、選手たちから聞いた限りですが…。

 広岡さんと川上さんの関係もいろいろと言われていたけど、広岡さんが西武(ライオンズの監督の頃に)でしていたのは、基本的には川上野球ですよ。守りの野球。華やかさがないから、お客さんからしてみたら、ちょっとつまんないかもしれませんね。だけど、強かった。

 強いチームは選手の層が厚いし、いい選手がそろう。チームというのは、小技のきく人、足の速い人、そういう寄せ集めの中に大砲が何人かいて…。そして、その中に強い気持ちを持っている選手がいる。ピンチヒッターというのは、やっぱり、強い気持ちがないと駄目なんです。

 いい選手は、いっぱいいるんですよ。野球の世界だけじゃなくて、どのスポーツにも。いい選手の中に、強い選手がいないとチームは強くはならない。試合で苦しいとき、その選手が前に出るようになる。チームに“何くそ精神”が出てくる。僕は高校の頃、よく打っていたからお山の大将みたいになっている時期があった。ジャイアンツではじめて、試合に出れない苦しさがわかった。

 V9の頃は、国松さんがバッティングコーチだった。実は、僕は取っ組み合いのけんかをしたことがあります。今だから言えるけども…。多摩川(グランド)でバッティングの練習をしていて、前日に国松さんから課題を言われていたことがある。それをずっとやっていたんですよ。だけど、できない。

 あの頃、毎日、朝の5時までバットを振っていたんです。真っ暗な部屋の中に大きなろうそくを買ってきて、そのろうそくの火だけ見て、ビュンビュンビュンビュン振ったりとか…。アニメの世界みたいでしょう? 王さんとコーチの荒川(博)さんみたいかな…・

 多摩川で国松さんが、バックネット裏に来て、「全然、できてねえじゃねえか!」って言われたんですよ、一言…。かつんと来たから、「一生懸命やってできないんだから、しょうがねえだろう」と言ったんです。国松さんが「何?」ってこちらに来て、2人で取っ組み合いのけんかになっちゃって。

 ジャイアンツの選手はもう、これは絶対にしてはいけないことなんです。幹部批判は、絶対やっちゃいけない…。クビになっても、仕方がないくらいにいけないこと。たしか、その日が大洋との試合だった。川崎球場の監督室へ行き、「実は国松さんとこういうことがありました」と川上さんに報告したんです。川上さんが、「国松はおまえをうまくしようと思ってやっているんだから、がんばれ」と言われて。僕は、「すみませんでした」と頭を下げて部屋を出た。監督やコーチのスタッフミーティングのとき、国(松)さんは一言も言ってなかったらしいです。川上さんに。

 その後、川上さんが「柳田が自分のところに謝りに来たが、こういうことがあったらしいじゃないか」と国さんに聞いたようです。国さんが、僕のところに来て、「おまえ、(川上監督に)言ったのか」って。それから、この人だったら何でも相談できると思いましたね。

 その後も、レギュラーにはなれない時期が続くんです。年をとると、焦りが出るんですよ。そんなとき、王さんの一言で、心が入れ替わった。強い気持ちを持つようになった。「俺しかいない」と自負できるような気持ちを持つこと。そのためには、王さんのようにバットを振って、ものすごい練習をしておかなきゃいけない。

 ただ、自分を自分で見極めることは、絶対にしなきゃいけない。例えば、王さんがバッティングされたときに、何であんなにぽんぽんぽんぽんとホームランを打てるんだろうなと思うじゃないですか…。でも、タイプ的に考えてみたら、僕はホームランバッターのタイプなのか、それとも、ヒットを打つ中距離ヒッターなのか。それを自分で見極めることはしなきゃいけない。実は、これは監督やコーチではなく、自分しかできない。

 王さんは現役の調子のいい頃に大リーグに行っていれば、たぶん、ホームランを次々と打ったでしょうね。イチロー(選手)のようなアベレージを残すことはできないかもしれないけど、ホームランの数は大リーグのトップレベルの選手と競い合ったんじゃないかな。速いボールにも相当に強かったからね。王さんは、別格ですよ。

 あの方は現役の頃、40本のホームランを打てなくなったら、引退すると話されていました。実際、30本以上打っているのに、辞めましたよね。ふつう、当時も今もありえないことですよ。球団も、そんな選手を引退させないでしょう。それでも、引退するんですから…。すごい選手ですよね。

⇒続く

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