Wedge REPORT

2019年3月1日

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木村正人 (きむら・まさと)

国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト。元産経新聞ロンドン支局長。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、慶應義塾大学法科大学院非常勤講師などを歴任し、2012年独立。近書に『欧州絶望の現場を歩く』(ウェッジ)。
 

 市民の多くは「アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにあるザ・ワールドを上回る人工都市になる。シシ大統領は信頼できる。新首都が完成に近づくと、どんどん値段は高くなる。今が買い時だ」と喉を鳴らす。

 エジプトの人口9500万人のうち2200万人が首都圏に住み、市民は慢性的な交通渋滞と大気汚染に悩まされている。650万人が移住する「新首都」には人口を分散させ、都市の効率化を図る狙いがある。建設予定地は国防省出資企業「新首都都市開発」が保有。情報も施設も軍の管理下にある。途中立ち寄った軍経営のガソリンスタンドでは若い兵士がレジで売り上げを数えていた。

 「新首都」の面積は東京23区より一回り大きく、シンガポールとほぼ同じ714平方キロメートル。2020年中には大統領府や首相官邸、議会、官庁の政府地区、続いて57カ国分の敷地が用意された大使館用の外交地区、2022年以降に住宅地区、ビジネス地区、スポーツ地区、セントラルパークが完成する予定だ。太陽光発電を活用した環境に優しいスマートシティーで、国際空港に加え、2つのホテルに12カ所のショッピングモールも建設される。

 「現代のピラミッド」と呼ぶにふさわしい巨大プロジェクトの総工費は450億ドル(約5兆円)。カイロ市民の1人は「国の予算からではなく、マンションや邸宅、ビジネス地区やオフィスビルの分譲でまかなわれるというのが公式発表だが、実情は誰にも分からない」と言う。

 中国の国有建設会社はビジネス地区でアフリカ一高い385メートルのタワーと20棟の商業ビルを建設するなど、30億ドル(約3300億円)の事業を手掛ける。

 エジプトの面積は日本の2・6倍。国土の95%が砂漠に覆われているが、シシ大統領になってから、その砂漠が沸騰しているのだ。「アラブの春(中東の民主化運動)」というより今では「アラブの津波」と呼ばれるようになった政変で軍出身のムバラク大統領が失墜。台頭したイスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」出身のモルシ大統領は、国防相だったシシ大統領によるクーデターで解任された。

 「ムスリム同胞団」の弾圧など強権的な政治手法で欧米の厳しい批判にさらされるシシ大統領が真っ先に取り組んだのがエジプトの生命線、スエズ運河の拡張だ。総工費90億ドル(約9900億円)を投じ、総延長193キロメートルの4割に当たる72キロメートルの複線化と既存航路の拡幅・増深に着手した。工事は2015年、わずか1年で完成した。年50億ドル(約5500億円)の通航料収入を2023年までに130億ドル(約1兆4300億円)に増やすことをむ。

「取材には国家安全当局の許可が必要」

 2017年には中国海運最大手、中国遠洋運輸集団(コスコ・シッピング・グループ)とTEDA(天津経済技術開発区)、スエズ運河経済特区が紅海に面したアインスクナに3000万ドル(約33億円)をかけ、ロジスティックパークを造ることで署名している。

中国・巨石集団の工場前にはコスコのコンテナを積んだトラックが止められていた

 エジプトのコスコ各事務所に取材を申し込むと、上海本社の許可を取ってくれと突き返された。上海本社に連絡すると「国家戦略ならびにセンシティブなプロジェクトなので取材は国家安全当局の許可が必要」という回答だった。

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