2024年12月3日(火)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年11月28日

 2018年APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議(11月17日、18日)は、歴史を振り返ってみても、また将来を占ってみても、ポートモレスビー(パプアニューギニアの首都)という象徴的で暗示的な地点で開かれたものだ。貿易戦争の渦中にある米中両国が真正面から激しい舌戦を繰り広げたという側面もさることながら、やはり印象的だったのは新たな世界秩序を構想する国が世界の超大国に挑むという構図が再演されたことである。偶然の一致というには、あまりにも出来すぎのようにも思えるのだが。

APEC2018 CEOサミット・11月17日(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 いまから70有余年前の日本は、大東亜共栄圏を引っ提げてアジア新秩序の構築を打ち出し米国と真正面から対決した。太平洋戦争である。南太平洋の要衝のポートモレスビーを押さえれば、南太平洋方面からの米豪両軍の進出を阻止できるし、西太平洋全域での戦いの主導権を握れる。だが日本はポートモレスビーを失ってしまった。南太平洋方面を完全制圧された日本は、やがて太平洋戦争に敗れ、大東亜共栄圏は儚くも潰えた。

 そして今、米国に挑むのは一帯一路という新たな世界秩序を掲げる中国である。ポートモレスビーは、今後の国際政治の主導権を巡る米中両国による角逐の場となったのである。

「7兆円」で中国を牽制したアメリカ

 APEC首脳会議初日の11月17日、会議に臨んだ両国首脳の間では早くも激しい応酬が見られた。

 中国の習国家主席が「歴史が示すように、衝突は冷戦、武力による戦争、貿易戦争のいずれの形であっても、そこから勝者は生まれない」と中国への圧力を強めるトランプ政権を牽制し、「経済・貿易の保護主義政策は世界経済のバランスを崩し、健全な成長の妨げとなる」と非難するや、会場からは拍手が起こったという。これに対して米国のペンス副大統領は「米国は長年にわたって中国につけ込まれてきた。だが、そんな時代は終わりだ」と、まさに喧嘩腰で応じた。

「米国は相手国を締め付ける“帯”や一方通行の“路”を押し付けたりしない」と習近平政権が世界各地に展開する一帯一路を標的に、7兆円(最大600億ドル)規模のインフラ投資資金の提供を申し出る。「我われは相手国を借金漬けにはしない」と、一帯一路関係国に過重負担を強いる中国による“融資”を強く非難した。さらにオーストラリアと共にパプアニューギニアのマヌス島にある海軍基地増強に協力する旨を明らかにした。中国による南太平洋の島嶼諸国への急接近を抑え、中国が強行する南シナ海の“内海化”に対する牽制策であることは間違いない。

 この時、米中両国首脳の頭の中に、太平洋戦争緒戦のポートモレスビーを巡る攻防で勝利を収めた米軍が、南太平洋を押さえ、やがて日本が掲げた大東亜共栄圏構想を打ち砕いた歴史は思い浮かんだだろうか。


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