2024年4月20日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年11月28日

中国が主導する「メコン川警備」の実態

 APEC首脳会議閉幕から3日が過ぎた11月21日、東南アジア大陸部を縫って流れるメコン川中流部に位置し、ゴールデン・トライアングルと呼ばれる中国、ラオス、ミャンマー、タイの国境が接する一帯で、関係4カ国武装部隊による共同治安訓練が行われた。

 じつは2011年10月、この地域で発生した中国人船員殺害事件を機に、中国の温家宝首相(当時)は電話でタイのインラック首相(当時)に対し「メコン川の安全航行を確保するための共同機構を中国・タイ・ラオス・ミャンマーの関係4カ国で立ち上げるべし」と提案している。この提案にタイのみならず、ミャンマー、ラオスが応じ、中国主導による4カ国共同のメコン川流域警備が始められ、今年で7年目を迎える。

 当初は航行の安全、麻薬密輸対策などを目的にした共同警備だったが、現在ではテロ、不法出入国、誘拐、人身売買、ネット犯罪などに対策項目が拡大している。関係諸国の一般国民による往来が頻繁になったということだろう。

 シンガポールの華字紙『聨合早報』(11月23日)によれば「今演習はメコン川流域全体に認められる潜在的危険、ことにラオス領内の極めて敏感な地域を想定して実施された」(雲南省警備当局者)とのこと。

 たしかに小さな事例ではある。だが、中国は東南アジア内陸の一角で7年に亘って関係3カ国を従えて河川警備を進めているのだ。中国はメコン川を、東南アジア大陸部をネットワークする物流の幹線ルートに据える。つまり、メコン川警備は一帯一路の一角を形成しているのである。

「高速鉄道建設」を巡る中国とタイの思惑

 メコン川で4カ国による共同演習が実施された2日後の11月23日、バンコクではタイ国内の高速鉄道建設に関する中タイ両国合同委員会が開催された。タイ政府で最初に中国との合作による高速鉄道建設計画に積極姿勢を見せたのはアピシット(袁順利)民主党政権(08年12月~11年8月)だった。

 以来、会合を重ねること現在までで26回に及ぶ。この間、高速鉄道建設計画はタクシン派対反タクシン派の政争に巻き込まれることなく、両派の政権は共に中国との交渉に前向きで望んだ。だが2014年にクーデターで成立したプラユット現暫定政権は、中国との交渉を打ち切り、タイ独自の高速鉄道建設を打ち上げる。

 だが、その間も両国の交渉は継続していたようだ。2016年9月、G20出席のために訪れた杭州で習国家主席と会談したプラユット暫定首相は、「タイと中国の間の高速鉄道プロジェクトは様々な理由から遅れがみられるが、タイ政府としては建設は必要と考えており、多方面から総合的な検討を加え、最も妥当な選択をする」と語り、中国の協力・支援による高速鉄道建設の必要性を訴えたのである。

 かくて昨年12月21日午後、東北タイ最大の都市で知られるコーラートにおいてタイと中国の合作による高速鉄道建設第1期工事の起工式が行われた。起工式は行われたものの、その後、工事が進捗する様子はない。だが工事計画が取りやめになったわけでもない。


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