2024年12月23日(月)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年12月27日

写真:新華社/アフロ

 習近平政権は、貿易・ハイテク・通信問題を主戦場とする米中覇権争いに世界各国の華僑華人社会に扶植した組織を動員し、トランプ政権に対し搦め手で揺さ振りを掛けようとしているようだ。

 12月22日、アフリカのソマリアにある中国和平統一促進会や東部アフリカ中国和平統一促進会などが全世界の華僑華人社会に向けて、「覇権・迫害・ニセ人権に反対し、カナダ政府に対し孟晩舟女士の無条件釈放を要求する共同宣言」への署名を呼びかけた。「孟晩舟女士」とは、もちろん米中貿易・ハイテク戦争に絡んで12月初めにカナダで身柄を拘束された華為(ホワウエイ)の孟晩舟CFOである。

「米中覇権争い」に対する習近平の本気度

「人権擁護を謳うカナダによる不当逮捕は、中国公民の合法で正当な権利を不当に侵す極めて卑劣な行為である。本件は通常の司法事案ではなく政治的陰謀であり、中国の企業と公民に対する政治的迫害である」と強い調子で書き出された「共同宣言」には、ソマリア、スーダン、タンザニア、ザンビア、アンゴラ、ジンバブエ、赤道ギニア、ナビビア、レソト、南スーダン、コンゴ、ケニア、ナミビア、ルアンダなどアフリカ諸国を中心に、アラブ首長国連邦、エジプト、デンマーク、スウェーデン、ブルガリア、ルーマニア、パナマ、ロシア、アメリカ、アルゼンチン、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国などの中国和平統一促進会や関係者が署名している。(タイの華字紙『中華日報』電子版は、12月22日から23日にかけての24時間ほどで86を数える団体と個人が署名したと伝える)。

 日本においては耳慣れない名前の団体だが、中国和平統一促進会は1988年に鄧小平の提唱によって組織され、台湾との統一促進を目指す非共産党人士を中心とした民間組織とされる。当初は台湾独立反対を目的にしていたが、現在ではチベットとウイグルの独立反対も掲げ、4952万100人(2013年9月16日現在)を数える全世界の華僑華人社会に根を張り影響を拡大している。

 これまで華僑にせよ華人にせよ、漢族をルーツとする海外在住者と看做されてきた。中国では「華僑」を国外在住の中国公民(=国籍保有者)、「華人」あるいは「外籍華人」を元中国公民の外国国籍保持者及びその後裔(=外国人)と規定してきた。だが、『華僑華人与西南辺疆社会穏定』(石維有・張堅 社会科学文献出版社 2015年9月)が示すところでは、最近では中国の領内から海外に移住した少数民族であっても――極端にいうなら「逃亡藏人(逃亡チベット人)」ですら華僑華人と看做そうとする動きが見られる。

 これを敷衍するなら、海外で反中・独立活動を展開するチベットやウイグルの出身者も華僑華人に組み込まれることになり、台湾・チベット・ウイグルの独立運動は国内問題として取り扱うことができる。そこで一連の独立運動の国際問題化を阻止するリクツが成り立つというのが、おそらく中国の狙いだろう。


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