チャイナ・ウォッチャーの視点

2018年12月27日

»著者プロフィール
閉じる

樋泉克夫 (ひずみ・かつお)

愛知県立大学名誉教授

中央大学法学部、香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士後期課程を経て外務省専門調査員として在タイ日本国大使館勤務。著書に『華僑コネクション』『京劇と中国人』『華僑烈々―大中華圏を動かす覇者たち―』(以上、新潮社刊)など。

[著書]

 現在、中国和平統一促進会トップを占める汪洋は習近平政権中枢(党中央政治局委員=チャイナ・セブン)の一員であり、全国人民政治協商会議全国委員会主席(参議院議長に相当)を務める。ということは、中国和平統一促進会は非共産党人士による民間組織というより、やはり共産党政権傘下の統一戦線工作機関と考えて間違いはないはずだ。

 今回の署名運動は共産党伝統の統一戦線工作の一環であり、カナダ政府に対する華僑華人社会を背景にしての揺さぶりと考えられる。だが、この程度の抗議活動でカナダ政府が孟晩舟CFOの釈放に応ずるわけも、ましてやトランプ米大統領が中国の巨大先端産業への追及の手を緩めるはずもないだろう。であるなら今回のカナダ政府糾弾を求めた署名活動は米中覇権争いに対する習近平政権の“本気度”を示し、世界各国の4952万100人の糾合を狙っているようにも思える。

バンコクで行われた前代未聞の「指導工作」

 中国和平統一促進会と同じような性格を持つ組織に、「僑聯」の略称で知られる中華全国帰国華僑聯合会がある。共に華僑華人を活動対象とするが、民間組織を掲げている前者に対し、全国人民政治協商会議を構成するだけに後者は公的機関の権能を持つ。

 僑聯の前身は共産党が根拠地としていた延安で組織された延安華僑救国聯合会で、当時は1000万人を数えられていた在外華僑を抗日戦争に取り込むことを狙ったものだ。抗日戦争への参戦を目指し帰国した若者を中心に組織された華僑聯合会などを基礎に、1940年9月にはシンガポール、イギリス、フランス、アメリカ、インドネシアなどからの帰国者が合流し延安華僑救国聯合会が結成され、主として海外における抗日闘争を展開する任務を帯びていた。

 その後、1956年になって関連団体を束ねる形で僑聯が組織され、帰僑(帰国した華僑)や僑眷(海外華人社会に親族を持つ者)を介し、共産党・政府と在外在住者とを結ぶ役割を担うことになる。

「無数の帰僑・僑眷と在外同胞は中国の特色ある社会主義建設における貴重な資源」であり、「中華民族の偉大な復興を実現する重要な力」であると位置づけ、「中華民族の偉大な復興という夢を実現させるために内外の中華民族の一層の共同奮闘を必要としている」と訴える習近平政権は、国内に住む帰僑や僑眷と海外の華僑華人社会との結びつきを強化し、僑聯を「中国の夢」の実現するために活用する――いわば僑聯は多くの華僑華人を糾合し、彼らを「愛国同胞」に仕立て上げ、一帯一路に組み込む――ことを狙っているといえるだろう。

 2017年6月、日本の東北大学に留学し博士号を取得した万立駿(1957年生まれ/大連出身)が僑聯主席に就任した。僑聯党書記を兼任することから、彼は習近平政権における華僑華人社会対策の現場トップに位置することになる。

 そんな万立駿が12月6日、バンコクで活動を続ける泰国和平統一促進会総会を訪れ、会長以下の会員を前に「中華民族の核心的利益」を実現させるために奮闘するよう「指導工作」を行った。これまで30年以上に亘って華僑華人社会の動きを見続けてきたが、僑聯トップが海外に出向き、ここまで明確な形で「指導工作」を行った例は聞いたことがない。ということは今回の「指導工作」を機に、僑聯によるテコ入れが本格化するとも考えられる。

関連記事

新着記事

»もっと見る