WEDGE REPORT

2019年2月23日

»著者プロフィール
閉じる

樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

日本への脅威など気にせず?

 そもそも理解できないのは、トランプ大統領が「核実験、ミサイル実験が停止されていること」を「急がない」理由にしていることだ。大統領は、米国に到達する大陸間弾道弾(ICBM)さえ阻止できれば十分と考えているといわれる。「アメリカ・ファースト」を標榜する大統領なら十分あり得る。

 その場合、すでに開発が終わっているノドンなど日本に到達する中短距離のミサイルは温存され、日本や周辺への脅威は除去されずに残る。
 
 核について金正恩はことしの「新年の辞」で「われわれは核兵器を作ることも実験することも、使うことも伝播することもしない」と〝非核化〟への決意を示した。気がつくのは、すでに製造・保有している核の廃棄については言及していないことだ。

 米国のコーツ国家情報長官は1月29日の議会公聴会で、昨年6月の首脳会談で金正恩が非核化を約束したにもかかわらず、「(約束と)不整合な動きがある」と核開発の動きが続いていることを示唆。「大量破壊兵器の能力を維持しようとしている」との分析を示した。トランプ大統領の側近、ボルトン補佐官(国家安全保障問題担当)は、北朝鮮が約束を守っていないから、トランプ大統領が2回目の会談をするのだーと、大統領が直談判するかのような説明をしているが、「急ぐ必要がない」といっている人に、核廃棄を強く迫るなどということは期待できないだろう。

 今回の首脳会談で、トランプ大統領が不必要な譲歩、不用意な約束をするのではないかと懸念されているが、警戒すべきことは、すでに述べたように、あらたな核兵器の開発、中短距離サイルの開発の中止を求めても、すでに製造、保有している核、ミサイルについては、温存を容認することだろう。

 もうひとつは制裁の緩和、解除だ。トランプ大統領は「急がない」発言の翌日の20日、
オーストリアのクルツ首相との会談前、記者団に、「私は制裁の解除をしたことはない」と強調。「先方が意味あることをしなければならない」と条件をつけながら、「解除できればと思っている」と本音をもらした。会談で北朝鮮側のわずかな前向きの姿勢をみて、米国が解除に踏み切る可能性もでてきたといっていいが、そうなれば、韓国、中国、ロシアがなだれを打って同調するだろう。ハシゴを外された格好になる日本は、そのときどうするか。
 
 安倍首相は2月20日夜、トランプ大統領と電話協議、ハノイ会談に向けて意見交換した。首相が拉致問題を提起するよう要請したのは当然としても、「急がない」発言、中短距離ミサイル、保有する核の処分に関して、どのように日本側の懸念を伝えたのか。トランプ大統領は20日の記者団とのやりとりで、

 「安倍首相と(電話で)意見交換した。彼とは波長があう」と首相との相性のよさを強調して見せたが、電話協議の内容についての説明は避けた。

 大統領が安易な妥協にでるという形で米朝首脳会談2Rが終わったなら、全く意味のない会談に終わってしまう。そうなれば、トランプ氏に対するノーベル平和賞を推薦した安倍首相も面目を失うことになってしまうだろう。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る