政治ショーの〝第2幕〟はベトナムが舞台になるという。トランプ大統領が5日(日本時間6日)の一般教書演説で、北朝鮮の金正恩委員長との第2回会談を今月27、28の両日、ベトナムで行うことを明らかにした。〝観客〟を失望させた〝第1幕〟から進展して、核問題解決へ前進―という結末を観ることがでえきるか。幕間の動きを見る限り、楽観的な見方は禁物と言わざるを得ない。
〝目くらまし〟が大統領の目論み
トランプ大統領が一般教書演説の場で、金正恩との会談を明らかにしたこと自体、〝政治スペクタクル〟であることを示している。選挙を別とすれば米国最大の政治イベントである一般教書演説のなかで、大統領は「人質は解放され、北朝鮮は過去15カ月間、核、ミサイル発射実験を行っていない」、「私が大統領になっていなければ北朝鮮と激しい戦争になっていた」と核危機を抑えたことを自賛した。次回会談の見通し、どう望むかの方針などについては言及しなかった。
トランプ大統領にとって、今回の会談第2ラウンドはなんとしても成功させなければならない。
〝ロシア・ゲート事件〟の捜査、不法移民阻止のためのメキシコ国境での壁建設をめぐる民主党の対立など苦しい展開の内政から外交問題に国民の関心を逸らそうという思惑があるからだ。内政で行き詰まった指導者が、故意に〝外敵〟を作り出したり、外交の見せ場を設定したりするのは洋の東西、時の古今を問わない。古典的な手法と言っていい。
金正恩体制維持に対話継続必要
一方の金正恩委員長にしても事情は同じだ。「隠遁国家」ときに「ならず者国家」などありがたくないニックネームを奉られ、警戒、非難はされこそすれ、国際的な舞台での主要なプレーヤーになることはなかった。そういう国の指導者にとって、唯一の超大国、米国の大統領と1対1で会談、しかもトランプ氏をして「金正恩と恋に落ちた」とまでいわせたのだから、夢のような話だろう。しかも、金正恩は中国の習近平主席とも米朝首脳会談に関連して昨年3回、ことしもすでに1回会談している。文在寅・韓国大統領とも昨年3回会談し、9月の会談の際は平壌に呼びつけている。
「超大国の仲間入りをした」という印象を与え、「金王朝世襲体制」への内外からの支持を受けるには、これ以上の材料は望むべくもない。実際に核を放棄する意志があるかどうかはともかくとして、米国との良好な関係はなんとしても維持する必要がある。
依然対立解けぬ双方の主張
外交的な得点稼ぎがトランプ、金正恩両氏の共通の思惑だとしても、握手だけで終わるわけにはもちろんいかない。目に見える形で、前進したという体裁、印象を与えなければ、〝観客〟の興味を失う。少なくとも昨年6月の第1回会談よりは進展させたいという意図では双方一致しているはずだ。
次回会談の展開については、さまざまな憶測がなされている。
米側はとりあえず、北側が望む経済制裁解除の条件として、すべての核施設、核関連施設の存在を明らかにして申告、廃棄に向けたロードマップ(工程表)、期限を示すよう求めると予想される。北朝鮮側がこれに応え、とくに廃棄の期限を明示した場合は前進と言えよう。2005年9月の6カ国協議で北朝鮮は、核兵器、核開発の全面放棄、核拡散防止条約(NPT)への復帰を表明したが、合意が履行されなかったのは、期限が設けられなかったことが一因と言われている。ロードマップが具体化し着手されれば、制裁の一部解除、緩和が実行される。
北朝鮮の出方も予想は困難だが、これまで表明してきた寧辺の核施設の廃棄、豊渓里地下核実験場と東倉里での査察受け入れーなどを共同声明に盛り込むなどして表面を糊途してくる可能性があるなどの報道もなされている。
北朝鮮が求めるのは、もちろん制裁の解除だが、今回は、これに加えて朝鮮戦争休戦協定の平和条約への格上げ問題を重視してくるのではないかとも指摘されている。
自らの体制の存続が最重要、究極の目的である金正恩にとって、制裁が緩和されれば生活苦にあえぐ国民を宥めることができる。平和条約が締結されれば、体制維持への脅威となる在韓米軍の撤退、縮小を米国に迫る口実を得ることができる。
朝鮮戦争の終結は、昨年6月12日のシンガポールでの第1回会談の共同声明で実質的に表明されている。「両国の何十年にもわたる緊張状態や敵対関係を克服し、あらたな未来を切り開く」、「大統領は北朝鮮に安全の保証を与える」―などの表現が盛り込まれたからだが、あらためて条約となれば、重みがいっそう増してくる。