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2019年2月8日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

トランプ、不必要な譲歩せぬか

 これら以外にもさまざまなシナリオが考えられようが、いくつかの根本的な懸念が残る。

 トランプ大統領について言えば、成果を急ぐあまり、不必要な譲歩、不用意な約束をする可能性はないか。昨年6月の会談後の記者会見で、必要もないののに、わざわざ在韓米軍の撤退、米韓合同軍事演習の延期に言及した。韓国や日本に不要なショックと不安を与え、米国防総省が火消しに躍起にならざるを得なかった。

 今回、米国への脅威除去を優先させて大陸間弾道弾(ICBM)の廃棄だけにとどめ、日本に到達する中・短距離ミサイルは手つかず、在韓米軍についても縮小、撤退などで合意するとなれば、由々しき事態を招く。

 日本ではあまり大きく報じられなかったが、今月12日の米紙、ワシントン・ポストは、トランプ大統領がこれまで、ロシアのプーチン大統領と5回会談した際、首脳だけの差しの話し合いの部分について、通訳からメモを取り上げ、会談内容の口外を禁止していたーと伝えた。身内に知られてはまずい合意があったとも推測されてもやむをえまい。トランプ氏がこの手を金正恩氏との会談でも用い、安易な譲歩、約束をして、公表されるのを阻むという恐れもあろう。

核開発への執念、1980年代から

 金正恩についていえば、そもそも核放棄を真剣に考えているのかという疑念だ。

 北朝鮮の核開発には長い〝歴史〟がある。

 以前、米国の朝鮮半島専門家から聞いた話だが、北朝鮮は1985年に旧ソ連から軽水炉2基の供与の約束を取りつけたがソ連崩壊のあおりで反故にされ、1992年に韓国の盧泰愚大統領(当時)からやはり協力を取り付けたが、結局実現をみなかった経緯があるという。「核開発は金日成主席(金正恩の祖父)の遺訓」といわれることが事実かどうかは別として、核開発にかける思いは、古くからのものであり、その意志に今も変化はないとみられる。

 〝金王朝〟を中心とした体制を維持するためにも、核はきわめて有効な手段だ。核実験、その運搬手段となるICBMを含む弾道ミサイルの発射実験というデモンストレーションを繰り返しておけば、米国も容易には進攻できない。〝安全装置〟である核を金正恩が簡単に手放すとは考えられない。

 事実、これまでも秘密裏に核開発を継続しているという報告、報道が相次いでいる。

 トランプ氏の一般教書演説前日の4日、国連安全保障理事会で北朝鮮制裁の履行状況を監視している専門化パネルの報告がとりまとめられた。2017年11月に発射されたICBMの製造工場として、中部・平城のトラック製造工場が利用されていたという。

 米国の有力シンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」はこれに先立つ1月30日、北朝鮮北西部、東倉里のミサイル実験場の衛星写真を公開。エンジン燃焼実験台や発射台の一部は解体されていたものの、簡単に復元できる状況だった。CSISはまた、1月21日、平壌の北西80キロの新五里のミサイル基地の報告書も公表。衛星写真などによると、日本のほぼ全土を射程に収める中距離弾道ミサイル「ノドン」の連隊が配置されている可能性があるという。 

〝未完のドラマ〟の次に来るもの

 こうした状況を考慮すれば、トランプ大統領としても安易な妥協はできない。軽率なことをすれば、議会との対立はいっそう激化、来年の選挙でも再選戦略にも影響が出かねない。

 米国は北朝鮮が完全に非核化を実現するまでは制裁を続ける方針であり、トランプ大統領も明言している。金正恩は、ことしの新年の辞で、「米国が約束を守らず、われわれの忍耐心を見誤り、一方的な制裁圧力を進めれば、あらたな道を模索するしかない」と恫喝めいた言辞を弄して米国を牽制した。

 政治ショーは、双方の対立から結末を観ることのできない〝未完のドラマ〟に終わってしまうのか。そうなった場合、その後の展開はどうなるか。想像するだけで、戦慄が走る。

  
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