2024年12月22日(日)

WEDGE REPORT

2019年2月1日

(AP/AFLO)

 本来なら本1月29日に行われるはずだった。米大統領の一般教書演説。政府機関の閉鎖(シャットダウン)の余波で来月までもちこされた。メキシコ国境への〝壁〟建設をめぐる大統領と民主党の対立から、民主党が演説の延期を大統領に通告した。役所の閉鎖はとりあえず解除され、大統領演説も来月5日に行われることが決まったが、双方からは根本的に矛を収めようという気配は感じられない。

 〝ロシア・ゲート〟疑惑とも相まって、大統領にとっては決して楽な政権運営とはいえないが、一部世論調査では支持率に何ら変化はみられず、シャットダウン前と同じ水準をたもっているという。混乱の影響などどこ吹く風といった体というからびっくりする。取りざたされている弾劾など実際は現実味に乏しいとみられ、次期大統領選で再選濃厚との見方すらなされはじめている。トランプの底力、まさに恐るべしだ。

下院議長が〝招待取り消し〟

 米下院で多数を維持する民主党のナンシー・ペローシ議長は1月28日、大統領に書簡を送り、「2月5日に下院の議場で一般教書演説を行ってほしい」と提案。大統領は「語るべきすばらしい話があり、達成すべき目標もある」と応じた。

 メキシコ国境の壁建設をめぐって激しく対立、テレビカメラの前で罵り合いを演じたことを考えれば、白々しいほどの礼儀正しさというほかはない。
 
 壁の建設、それに端を発した政府機関閉鎖については、すでに連日のように報道されているが、簡単に振り返っておきたい。

 2016年の大統領選における公約であったことから、大統領は2019年度政府予算に57億ドルを盛り込むことを求めていた。ところが昨年11月の中間選挙で多数を奪還した民主党が「(大統領は)ありもしない危機を作り出している」と反発。双方がっぷりで予算が成立せず、給与支払いなどが困難になったため昨年12月22日から、連邦政府機関が閉鎖された。この間、5週間。1月25日に2月15日までのつなぎ予算が交渉の末、成立したため異常事態はとりあえず解消された。
 
 トランプ大統領は早い時期から予定通り29日に一般教書演説を行いたい考えだったが、ペローシ議長は政府機関閉鎖中の1月23日、政府職員であるシークレット・サービス(大統領護衛官)の活動に制約が生じ、安全が確保できないとして、延期を主張した。一般教書演説は、下院議長が大統領を招待して演説を聴くという形を取るため、ペロシ議長の行動は「招待取り消し」、強権の発動とも映った。

 政府機関がいった再開されたこともあって議長は2月5日まで延期したうえで、演説を行うことを決断せざるを得なかった。

 予算をめぐる大統領と議会の対立から、政府機関が閉鎖に追い込まれたことはこれまでもあったが、今回の35日間は過去最長。80万人にのぼる職員が自宅待機を余儀なくされ、空港での管制業務、連邦捜査局(FBI)による犯罪捜査、情報収集、テロ対策、沿岸警備隊の活動、司法省や財務省などの活動にも影響が出た。

大統領支持率には影響なし

 壁の建設は移民排斥、人種偏見にもつながりかねない政策だけに、一連の混乱をめぐっては大統領の非を鳴らす声が高まると予想された。事実その通りになり、1月27日にNBCニュースとウォール・ストリート・ジャーナルが行った世論調査によると、政府機関閉鎖による混乱そのものの責任は大統領の政治姿勢にあるとする人は50%にのぼり、下院民主党に責任ありという人は37%にとどまった。APなどの調査では、大統領の支持率が34%、不支持は65%にのぼった。

 ところがだ。NBCの調査で、大統領の支持率を聞いたところ、43%にのぼり、不支持率は54%。43%という数字は高い支持率ではもちろんないが、政府機関閉鎖前の昨年12月と同じ水準、大統領就任後の平均支持率35%ー45%に比べて遜色がないことに驚く。シャットダウンの責任があるとみていながら、それでもなおトランプ氏を支持する人が多いことを示している。
APの調査にしても、経済を取ってみると、支持は44%と10ポイントも跳ね上がり、支持せずーは55%に低下する。共和党支持者の間の評価はいぜん圧倒的で、80%台後半から90%にものぼる。 

 トランプ氏の支持基盤が〝低空飛行〟とはいえ、きわめて強固であることが、当初「一般教書演説ではなく文書を出してくれてもいい」と強硬姿勢を見せていたペローシ議長に妥協の道を選ばせた理由の1つかもしれない。議長は大統領の一般教書演説招待取り消しの理由を、警護官の活動が不十分になる恐れがあると説明したが、シークレット・サービス高官が、「われわれの活動に影響をもたらすことはない」と断言。招待取り消しが〝政治判断〟である可能性が強く指摘された。
 
 一般教書演説は毎年、夜のゴールデンアワー(東部時間午後9時、日本時間翌朝午前11時)から放映される。国会論戦を通じて首相の発言に触れる機会に恵まれている日本とちがって、大統領の言葉を直接聞くことの少ない米国民が関心を持っている政治的イベントだ。それを政争に利用したとなれば。かえって民主党がしっぺ返しを食うことになりかねない。


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