2022年6月30日(木)

Washington Files

2019年3月4日

»著者プロフィール
著者
閉じる

斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

米朝首脳会談のめり込み

 アメリカの大統領で外交上、最近まで米国務省の「テロ支援国家」にリストアップされ、自らも「ならず者国家」呼ばわりしてきた独裁国家との関係強化にこれほどまでに熱心に取り組んできたのは、トランプ氏のほかに例を見ない。中でも、2度の首脳会談や十数回にわたる個人書簡のやりとりなどを通じ、金正恩氏に対して示した並みはずれた思い入れは外交常識を打ち破るものだった。
 大統領は昨年9月、ウェストバージニアでの政治集会で聴衆に向かって、過去に何度も個人書簡の交換があったことを引き合いに「われわれ2人は恋に落ちた」と公言してはばからず、訪米した安倍首相にその書簡のうちの1通原本を誇らしげに披露しながら「この中身は米朝関係に突破口を開くものだ」と絶賛した。今年にはいってからも1月初め、ホワイトハウス閣議の場で、金氏から寄せられた手紙を閣僚たちにかざしながら「諸君らの誰にもこれほど美しい手紙は書けないだろう」などとコメントしたことなども、新聞、テレビではごく普通のことのように報じられてきた。

 今回の第2回首脳会談についても、大統領は直前まで、記者会見や重要演説などの場で「事前協議はうまくいっている」「素晴らしい結果が得られるだろう」などと楽観的見通しを披露してきた。しかし結果は、何の成果も引き出せないままハノイから手ぶらで帰国の途に就かざるを得なかった。

 双方物別れに終わった理由として、大統領は、「北朝鮮側がただちに経済制裁の全面解除を求めたこと」を挙げたが、会談終了後、北朝鮮側代表団は「一部制裁緩和を求めたが全面解除は提起しなかった」と説明、米側との主張の食い違いを露呈させた。

 ただ、トランプ大統領が最初から成果を急ぎ、十分な事前の情報収集と局面打開の確証も得られないまま会談にのめり込みになっていたそしりはまぬかれない。

 それでも共和党幹部たちの受け止め方は、「悪い取引をするなら、むしろしない方がまし」(マルコ・ルビオ上院議員)として、大統領の今回の対応を評価する姿勢さえ見せている。これもトランピズムの一環というわけだ。

 こうしたトランプ大統領と共和党の奇妙な関係について、ニューヨーク・タイムズ・マガジンが最近共和党重鎮の一人、リンゼイ・グラハム上院議員との興味あるインタビュー記事を掲載している。同議員はかつて、トランプ氏を徹底して批判、2016年大統領選挙予備選の段階で「トランプだけはわが党の指名候補にしてはならない。彼は狂人(kook)であり、大統領になる資格はない」などと党員たちに呼びかけていた一人だった。

 その彼がつい最近、態度を180度豹変させ、大統領擁護姿勢を明確に打ち出した。なぜそうしたかについて、次にように答えている。

 「要は、政治家として意味があるかどうかということだ。政治はつまり、欲する結果をもたらす芸術にほかならず、私が上院議員としているかぎり、大統領と仕事をし国のために良い結果をもたらすことができる」

 同議員はさらに、インタビューを通じ、トランプ大統領に対する自分の従来の考えを変えたわけではなく、あえて2020年選挙を意識して大統領擁護に回っていることを認めたという。

 もしグラハム議員のこうした主張が共和党主流はじめトランプ支持派の代表的受け止め方であるとすれば、大統領が今後もいかに常道を逸脱した政策決定や言動を続けたとしても、「常識の範囲」として容認されていくことになる。

 ただ問題は、トランプ大統領が来年の選挙で再選を果たせず、1期だけで終わった場合、よりまともな政治に戻るかどうかだ。

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る