2022年7月6日(水)

Washington Files

2019年3月4日

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斎藤 彰 (さいとう・あきら)

ジャーナリスト、元読売新聞アメリカ総局長

1966年早稲田大学卒業。68年米カリフォルニア州立大学バークレー校大学院修士課程修了、70年読売新聞入社。ワシントン常駐特派員を2度務めた後、アメリカ総局長、東京本社取締役調査研究本部長などを歴任。著書に『中国VSアメリカ』『アメリカはカムバックする!』(いずれもウェッジ)がある。

非常事態宣言

 トランプ大統領は先月15日、メキシコ国境に壁を建設する事を目的とした「国家非常事態」を宣言した。しかし現実には、「国家非常事態法」が宣言の前提として規定した「アメリカ合衆国全体あるいは国外の主要部分に起源する国家安全保障、外交政策または経済に対する尋常ならざる、とてつもない脅威」はどこにも存在せず、たんに壁建設費用を政府予算の中から転用させるのが目的であると説明された。

 しかしこれは、予算権限を持つ議会の意思を無視し、憲法が保証する「三権分立」の精神に抵触する行為であることに疑念の余地はあまりない。各種世論調査でも、65%近くが大統領宣言に「不支持」を表明、「支持」は30%前後と、是非は歴然だ。

 しかも、共和党主流はつい数年前のオバマ民主党政権当時、大統領に集中する行政権拡大に対し、ことあるごとに警告を発し、「連邦議会の権限と尊厳」の重視を強く求めてきた。

 ところが今回、民主党議員から下院本会議に提出された「非常事態宣言無効」決議案に対し、共和党は支持に回った13人以外の全員が反対票を投じた。多くの共和党議員は反対理由について言葉を濁し、明確な説明を避けたままだ。

 2020年大統領選とともに実施される議会選挙を意識し、トランピズムにあえてタテつくことを避けたとみられている。非常識の常識化を意味している。

異例の議会聴聞会

 「大うそつき」「ペテン師」「人種差別主義者」……同月27日、大勢の報道陣が詰めかけ異様な雰囲気の中で開催された注目の下院監視・改革委員会公聴会は、証人として出席したマイケル・コーエン元大統領顧問弁護士が、激しい口調でトランプ大統領を非難する冒頭の陳述書読み上げからスタートした。

 2007年以来、10年以上もトランプ氏の個人弁護士かつ腹心として仕えてきたコーエン氏は解任されて以来、ロシア疑惑、セックス・スキャンダル、大統領就任前までのトランプ氏のビジネス取引などを捜査中の検察当局との司法取引を受け入れ、度重なる事情聴取に応じてきた。

 その彼が今回、トランプ氏のこれまでの行状について、初めて歯に衣着せず証言した。側近中の側近とみられていた人物が公の場で、現職大統領に対し、容赦ない批判に回ること自体、きわめて異例の事態であり、詰めかけた全米のテレビ、ラジオ局はもちろん、新聞主要紙までオンラインで一部始終を実況するほどの異常な盛り上がりを見せた。

 コーエン氏はとくにこの中で、

  1. トランプ氏は自らの不倫問題についてうその証言をするよう命じた
  2. ロシアによる2016年米大統領選への介入について大統領は事前に知っていた
  3. トランプ氏は大統領選期間中を通じ、自分が大統領になっても国を率いる望みも意思もなく、個人的な富と権力拡大のためだけに出馬した
  4. 長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏らトランプ陣営幹部とロシア人関係者との秘密会合を本人も熟知していた

 など、核心に触れる証言をした。さらに延々7時間に及んだ公聴会の終わりに、コーエン氏はトランプ氏について次のような過去の“罪状”を本人向けにテレビカメラを通じて喚起する異常ともいえる証言で締めくくった:

 「あなた(トランプ大統領)は自分の得にならない場合でも真実を語りなさい。メディアを批判するだけでなく、自分自身のの数知れない汚れた行いについて責任をとりなさい。アメリカでのより良き暮らしを求めてやってくる移民と家族を引き離し冒毒することはやめなさい。同盟諸国の犠牲の下に敵対国に媚を売ることは慎みなさい。最後に、自らの選挙支持基盤のご機嫌取りのためにクリスマスからお正月にかけて政府閉鎖の挙に出るようなことはやめてほしい。こうした振る舞いはがさつで野卑であり、大統領職を汚し、非アメリカ的というべきだ」

 しかし、公聴会に同席した共和党議員らは、開始前から声明やテレビインタビューなどを通じ、逆にコーエン証言の信用を貶める発言を繰り返しただけでなく、同氏の証言途中にも何度か議事進行を妨げる場面まであった。

 共和党側は証言終了後も、コーエン氏が問題提起した、新たな大統領疑惑の真相究明には何ら触れることなく、公聴会自体について「フェイク証言」だとして大統領援護に回った。

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