2024年12月23日(月)

さよなら「貧農史観」

2011年11月18日

TPP参加交渉が表明されてもなお、農協組織を中心とした関係者たちの反対の声はやまない。
72年ぶりに試験上場という形で再開した米先物取引に対しても、同様に猛反対している。
農協組織のコメの集荷率減少により、コメ取扱いによる利益を大きく失いかねないからだ。
日本はいつまで農業関係者の居場所づくりのために問題が創作されるのだろうか。

米先物市場で損をするのは誰か

 農業問題の本質とは農業関係者問題である。農業関係者の居場所作りのために農業問題は創作され続けて来たとも言える。農協組織による米先物市場に対する批判とボイコットもその一つに挙げられる。

 日本が世界に誇れる経済史上の出来事のひとつに1730年の米先物市場(堂島米会所)創設がある。それは、世界最大の商品先物取引所であるシカゴ商品取引所設立より100年以上も前のことだ。米先物市場は明治時代の1869年に廃止、76年に再開し、日中戦争下の1939年、米穀配給統制法の施行により米穀取引所が廃止されるまで続いた。そして、今年8月8日、72年ぶりに東京と大阪で米の先物取引が試験上場という形で再開された。だが、先述のとおり、農協組織は先物市場開設に猛反対しボイコットしている。わが国のコメ流通の中核を担う農協の全国組織であるJA全中(全国農業共同組合中央会)は、概ね次のような理由で反対している。

 (1)現在国が行っている戸別所得補償制度を基本とした政策と矛盾する。(2)先物市場のもとでは、我々が主張する政府買入れなど需給調整の取り組みが実施できなくなる恐れがあり、国境措置の問題にも影響する。(3)主食である米を投機的なマネーゲームの対象とすることは、食料安全保障の観点からも大問題――などである。

 さらに農協組織を代弁して、立正大学経済学部教授の森島賢氏は、農協関連メディア(9月12日付農業協同組合新聞)で組合員に先物市場のボイコットをこう呼びかけている。「何かのきっかけで、投機マネーが殺到し、一般の人を巻き込んだマネーゲームになるだろう。米価は暴騰暴落を繰り返し、コメの流通を混乱させるだろう」「農業者と農協はコメの先物取引に参加せず、反対し続けねばならない」「そうして、先人から受け継いだ生命の糧であるコメを守り通さねばならない」。

 情に訴えた判りやすい農協組合員向けのアジテーションだが、多くの経済学者が常識的に認めている先物市場の持つ米価の短期変動のコントロール、需給調整機能、米価平準化機能、価格保険機能などを過小評価し、不安を煽っているといえる。確かに投機マネーの流入で先物相場は乱高下するかもしれないが、それで損する(あるいは儲ける)のは博打を打つ投機家だ。生産者や実需者は、先物市場があればこそ、リスクヘッジ機能を活かして、少なくとも損をすることはないのである。

農家の農協離れは止まらない

 山形県鶴岡市に庄内農業高校の同窓生など生産農家約120名を中心にして設立された「庄内こめ工房」というコメ集荷販売業者がある。代表の斎藤一志氏は、「先物市場は絶対に必要です。現在のところ震災の影響でコメの引き合いは強く、自社の集荷量約3万俵の倍くらいの注文が入っている。でも現在はともかく、年が明けたら今のような値段での引き合いはなくなり、現物市場での価格は下がるでしょう。わが社もまだ先物市場への上場はしていませんが、年明けを見越し上場を考えなければならないと思っています。先物市場は大歓迎です。先物市場がなくてこれからのコメ経営なんて危うくてやってられませんよ」と語る。これが事業的にコメ生産や流通にかかわる者の常識的な意見である。


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