2022年7月2日(土)

さよなら「貧農史観」

2011年11月18日

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昆 吉則 (こん・きちのり)

『農業経営者』編集長

1949年神奈川県生まれ。農機業界誌編集を経て、87年に株式会社農業技術通信社設立。93年に日本初の農業ビジネス誌『農業経営者』を発刊。

 では、なぜJA全中や経済事業(農協組合員が生産した農産物を販売)などを担う全農(全国農業協同組合連合会)は、先物市場の成立に反対なのか。かつて食糧管理法の下コメの集荷で独占的地位を占め、その後も国家管理の減反政策が続くことで組織を維持してきた全農。だが、戸別所得補償制度が農家への直接支払いになることで全農の組織力はとみに低下してきた。その上で、さらに農協組織の集荷率(系統集荷率)を下げることにつながりかねない先物市場成立は、最大の利益の源泉であるコメ取扱いによる利益を大きく失いかねないからだ。

 たとえば、2008年米の収穫量のうち、全農に販売委託されたのは334万トンで全農の集荷比率は37.9%に過ぎない。これは、農家の農協離れとともに、市町村や地域ごとに組織される単位農協の直売比率の上昇が原因だ。さらに地域単位でみると農協系統の集荷率が5割を超えるのは北海道(70.6%)と北陸(52.3%)だけで、最もコメ生産量の多い東北ですら44.7%。その他は20~30%台となっている。震災以降、米取引価格は上がっている。農協に出荷(販売委託)した場合に農家に支払われる仮渡金も上昇しており今年の集荷率は上がるが、農協集荷率低下のすう勢は変わるまい。

 全農からの組織内圧力があって今は動けなくとも、組合員の利益を考えて独自販売に力を入れる単位農協は、庄内こめ工房の斎藤氏と同様のことを考えているはずだ。

 むしろ、組合員に対しても詳細が明かされない全農の不透明なコメ価格形成や政治力だけに頼ってきた全農の販売能力の低さが農家の農協離れを生んできた。そうしたビジネスモデルがもはや時代遅れになっているのである。現物市場に加えて、先物市場での明快な指標ができることで、コメの生産者や卸売業者にとって判断材料が増え、取引の透明性が高まることになるはずだ。

 日本の農業の経営環境が今後も鎖国状態ならば話は別だが、農産物をはじめとする自由化の流れはもはや避けて通れない。そうした条件下に置かれている農業経営者たち、それ以上に大量の米を集荷している農協組織こそ、自らの経営リスクを回避するために、米先物市場は必要であるはずだ。日本はいつまで農業関係者の居場所作りのために問題が創作され続けるのだろうか。

◆WEDGE2011年11月号より


 




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