インド経済を読む

2019年3月25日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

選挙が近づくたびに繰り返される「バラマキ」や「ポピュリズム」

 この動きは何も経済成長率の統計だけではない。

 例えば2月1日に発表されたインド予算案。

 インドでは、毎年このタイミングで翌年度の政府方針や新しい税制が発表される。当然、海外投資家や外資は規制緩和や政府手続の簡素化を期待するのだが、この数年の傾向は「バラマキ」に近い。今回の「バラマキ」の主な内容は、以下の通りである。

1)農家に対する所得補助を決定

 インドで圧倒的な数(つまり票)を抱えている小規模農家に対し、年6000ルピー(9000円程度)の所得補助を与える。しかもその所得補助を「3月31日までに与える」という。日本では考えられないスピード感だ。政府は「景気対策」を強調するが、4月の総選挙をにらんでのあからさまな「バラマキ」と見る向きは少なくない。

2)個人所得税の従来の非課税枠を「年収25万ルピー」から「年収50万ルピー」に引き上げる

 こちらも低所得層をにらんだ減税策だ。それに加え、日本でいうところの基礎控除も従来の4万ルピーから5万ルピーへ20%超も拡充された。この年収50万ルピーという金額はもはや低所得層だけでなく、いわゆる中間層にまで恩恵を与える大盤振る舞いだ。国の財政赤字の規模がGDP比で従来の3.3%から3.4%に拡大することも同時に発表され、慢性的な財政赤字に対する懸念の声は強くなっている。

 このように、毎年繰り返される低所得層への「課税緩和」や「所得補助」で、インドの慢性的な税収不足に改善の目途は立っていない。また逆に、高所得層へのさらなる課税「サーチャージ」は数年ごとに継続して増えており、外資系企業やその駐在員にとっては悩ましい問題となっている。外資系企業がインドに拠点を置くコストは当然上がり、インドへの「FDI(海外直接投資)」に冷や水を浴びせている。

 しかし、こうすることで、9億人を超えると言われるインド有権者の大部分を占める低所得層の支持を得ることができるのもまた現実である。

「我々はあなた達からは税金は取りません。お金持ちと外国人からガッポリとります!」という意思表示は、結果として選挙で有利に働くのだ。

 もちろん政府も、「やるべきこと」はきちんと理解している。

 税負担を「より広く薄く」することで税収を確保し、その税収をテコにインドの弱点と言われるインフラを整備。規制を徐々に緩和して外資を呼び込み、経済成長を加速させるという王道の政策が正解だとは政府も分かってるのだ。しかし、先述のような「バラマキ」をしないと選挙に勝てないため、間違っているとわかっていても、所謂「ポピュリズム」が生じてしまうのだ。

 政権発足当初に高い支持率を誇っていたモディ政権には、こうした「世界最大の民主主義国家ゆえの苦悩」を乗り越える英断が求められていたが、現状ではそんなモディ政権ですらこの「ポピュリズム」に苦しめられているようだ。

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