インド経済を読む

2019年3月25日

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野瀬大樹 (のせ・ひろき)

公認会計士・税理士

大手監査法人にて、株式公開支援業務・法定監査業務・内部統制構築業務などに関わったのちに独立し、野瀬公認会計士事務所を設立。インドのニューデリーに、日本企業のインド進出を支援するNAC Nose India Pvt. Ltd.を設立し、代表に就任。日本インドの双方より、日系企業へのコンサルティング業務を行っている。近著に『お金儲けは「インド式」に学べ!』(ビジネス社)がある。

[著書]

パキスタンとの「国境紛争」にも影響

 さらに、その苦悩が別方面で顕在化したと言われているのが2月に大騒ぎになったパキスタンとの国境紛争である。

 インド・パキスタン両国が主権を主張するカシミール地方で2月14日、インド治安要員の約40名が死亡するテロがあったことへの報復として、インド空軍は同26日、国境を超えて空爆を実施した。インドとパキスタンの間では小さな銃撃戦はあるものの国境を超えての空爆は非常に稀で、現地では連日その「成果」や、愛国心を煽る内容の報道ばかり流れていた。

 インド政府はパキスタンの過激派300人以上を空爆で殺害と発表したが、「死者なし」と発表したパキスタン側の情報とは相当な乖離がある。内政や経済面での行き詰まりを安全保障面で解決しようとするのは、日本も含め古今東西で繰り返され続けてきた手法であるが、今回の空爆に関しても支持率低迷に苦しむモディ政権の意図が少なからずあったのでは、という見方が強い。事実、空爆後モディ政権の支持率は急騰している。

インドの経済成長を妨げる「最大の障害」とは?

 インドは世界最大の民主主義国家である。ただ、「民主主義は素晴らしい」と小さいころから教育を受けた我々日本人もその弊害にはもう気が付いているハズだ。多くの「物言う有権者」の顔色を窺い続ける結果、本当は正しいと思っていてもその政策を実行できないジレンマが生じる。インドは今、そのジレンマに直面しているように見える。

 ご存じの通り、日本で普通選挙が導入されたのは1925年で、それ以降全ての成人男子に選挙権が与えられた(女性も含めると1946年から)。それまではいわゆる制限選挙で、ある程度の納税をしている成人男子だけに投票権が認められていた。

 ただ、インドは1947年の独立以来、全ての成人男女に選挙権がある。これは民主主義の理想としては素晴らしいのだが、実際は前述のような「ポピュリズム」を多発する原因にもなってしまう。ウソかホントか分からないが、インドの地方選挙では「私が当選したら皆さんの家にテレビを配ります」と公約を掲げた候補者が当選したという逸話まであるくらいだ。日本の制限選挙にもそれなりの意味はあったのである。

 選挙権を一度認めてしまった以上、世界最大の民主主義国家として、インド政府は世界でもっとも困難な国家運営を続けていくしかないのだ。

 現地で暮らしていて思うのは、この国の「国家運営の芸術性」である。13億を超える人口、多くの宗教と民族、国境紛争やテロの危険性……これらの問題を抱えた巨大な国家を、中国のような「独裁体制」でもなく、アメリカのように継続的な「対外戦争」も行わず、70年以上にわたり運営しまとめ上げる営みはもはや「芸術」と言っていいと思う。しかし、この「芸術性」こそが、インドを中国と並ぶ世界の経済成長を支えるリーダーたらしめない理由になってしまっているのだ。

 このインドの経済成長を阻む問題を解消するには、2014年のモディ政権のような高い支持率を誇る政権の誕生を待つしかないのだが、次の選挙では与党・BJP(インド人民党)が議決権を減らすことで、連立政権の誕生が予想されている。そうなれば政権運営は各方面への「忖度」を必要とすることになる。モディ首相も今ごろ頭を抱えているに違いない。

 4月11日より投票が始まる「インド総選挙」から目が離せない。

  
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