来日中だったマリナーズのチームスタッフや選手たちにイチローについて聞いてみた。まずはティム・レイカー打撃コーチだ。「イチローは大変偉大な選手だが、力に衰えが目立ち始めているのは事実。そのような選手をどうして大事な開幕戦で先発起用したのか」と質問をぶつけてみると「偉大なプレーヤーだからだ」とシンプルに答え、こう続けた。
「ここ(日本)に来る前までイチローは確かに実戦で結果が出ていなかった。1年間近くも(球団会長付特別補佐として)生きたボールを打ってこなかったことは大きな要因。しかし、それを乗り越えるだけの経験値が彼にはある。生まれ故郷の日本だからこそ信じられない力を発揮する可能性にもかけたい。そして何より、そのイチローの姿を見ながら日本の2連戦でプレーする若い選手、そして我々スタッフも多くのことを学ぶはずだ」
イチローは本当に戦力として考えてのメジャー昇格なのか
決して質問した筆者が日本人だからと気遣ったリップサービスなどではない。真剣な眼差しとともに雄弁に語る同コーチの表情を見て、そう確信した。ここまでの答えだけでも、もう十分だ。でも、あえて念のため失礼を承知で「イチローは本当に戦力として考えてのメジャー昇格なのか」とも振ってみた。すると、同コーチはすぐさま次のように言い切った。
「大きな戦力だ。先ほどもコメントしたが、日本だからこそ彼が最大の力を発揮できると信じている。そして試合に勝つため、多くのプラス要素もチームにもたらしてくれるため、我々は彼をここ(日本)に連れて来た。それで十分じゃないか」
なるほど。その通りだと思った。フロリダ・マーリンズ時代からのチームメートとしてイチローに心酔しているディー・ゴードン内野手も「彼が日本の開幕戦でメンバー入りすることに異議を唱える選手なんてマリナーズには1人もいない」。レジェンドの最後の勇姿を見ながら、そのゴードンがベンチで涙を流していたシーンにもらい泣きしそうになった人もきっと多かったであろう。それだけイチローはマリナーズで「アイコン(象徴)」だったのである。
そして、このMLB開幕2連戦は見事にマリナーズが連勝し〝スイープ〟。イチローに何としてでも有終の美を飾らせようと後輩のチームメートたち、スコット・サービス監督らスタッフらが一丸となって白星奪取に向けてさらに懸命になった。それは現場で取材した限りにおいて間違いのない事実である。そう考えると、イチローの開幕スタメンからの2試合連続先発出場は掛け値なしに文句なく大正解だったと言い切れるはずだ。いずれにせよ、さまざまな意味でメジャーリーグの歴史と常識を塗り替えてしまった、こんなスーパースターはおそらくもう二度と現れないだろう。
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