Wedge REPORT

2019年2月14日

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 自分の立場を忘れてやるせない涙を流した経験は初めてだった。競泳女子で個人5種目の日本記録を持つ池江瑠花子が「白血病」と診断されたことを12日、自身のツイッターで公表した。筆者も池江をこれまでたびたび取材してきたジャーナリストの1人として例えようのない大きな衝撃を受けている。彼女がこなしてきた人一倍の努力は今まで間近で見てきた。だからこそやるせないし、悔し過ぎて神様は非情だと思った。

(CalypsoArt/Gettyimages)

 しかし当たり前のことだが、ショックを受け、心底悔しいのは他ならぬ池江本人だ。記録ラッシュで2020年の東京五輪では日本水泳女子のエースとして金メダルも期待されていた。残り約1年半となったところで、このような悲劇に見舞われるとは…。もう言葉が見つからない。

 白血病が急性か、あるいは慢性なのか。型の解明によって今後の回復具合が鮮明になってくるが、今我々メディアの姿勢としては彼女の「東京五輪出場」に関して安易な形で煽り、重圧を与えるべきではないと考える。

 2カ月から半年で大抵の人は良くなるとか、あるいは最低でも治療に2年を要するなどとさまざまなメディアでその筋の専門医師や有識者が勝手な見解を口にしている。ただ、どちらにしてもスケジュールから逆算すれば、来年の時点でもトップアスリートとしてのレース復帰は厳しいと言わざるを得ないだろう。だからこそ命を削ってまで東京五輪に出て欲しいとは思えない。

 そういう意味でも同日の記者会見で日本水泳連盟の上野広治副会長が東京五輪の代表選考で池江について「特別な猶予は考えていない。タイムを切ることと順位が求められる」と述べたことは至極真っ当な発言であった。人によっては「非情」と聞こえるかもしれないが、それは見当違いだ。

 昔から付き合いの深い日本水泳連盟の関係者が12日当日、会見の直後に私の携帯へ連絡を入れてきた。そこで次のように同連盟の総意を代弁している。

 「我々だって本音を言えば、奇跡が起こって池江に東京五輪出場権をつかんで欲しい。これは連盟の総意と受け取ってもらっていい。しかしタイムの世界で戦うアスリートに対し、それをないがしろにして仮に特別扱いをしてしまえば、これまで築き上げてきた日本水泳界の歴史が崩れ去ってしまうのも事実。冷たいように思うかもしれないが、池江もそんな安っぽい情けなど望んでいないはずだ。これまで通りのルールで猶予を設けないことが、池江にとって一番の良薬になると我々は信じている。もし今の時点から彼女を東京五輪に出場させるため、規定を変えてまで強制的に代表権をつかむように押し付ければ、どうなってしまうか。恐ろしい病気に対して勇敢に立ち向かおうとしている18歳の女性に、そういう無理強いをさせる鬼畜まがいのことなど出来るはずがない。むしろ我々がやらなければいけないのは彼女の『東京五輪出場』を変に肩入れして猛プッシュしないようにすることだろう。それこそが最大限の配慮だと考えている」

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