イノベーションの風を読む

2019年4月9日

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 大きな利益を生み出すことが期待される新たなプラットフォームを獲得すべく、多くの企業が競って日本版MaaSの開発に取り組んでいます。ブームの火付け役となった、フィンランドのヘルシンキで利用できるMaaSスマホアプリ、Whim(ウィム)は、公共交通機関、タクシー、シティバイク(自転車シェアリング)、レンタカーなどの複数のモビリティサービスの予約や決済を一括して行うことができます。さらに、お得なパッケージプランや、すべてのサービスをほぼ無制限に利用できるプランなどが用意されています。

ヘルシンキ中央駅(bortnikau/gettyimages)

 トヨタ自動車が昨年の11月から福岡市の周辺地域において西日本鉄道と実施しているmy route、日立製作所とJR東日本のRingo Pass、小田急電鉄が「駅すぱあと」のヴァル研究所と連携して始める予定のMaaSなど、日本版MaaSは、すでに乱立の様相を呈しています。JR東日本は、小田急電鉄や東急電鉄との連携も発表しています。乗換案内アプリを提供するジョルダンも、経路検索やチケット購入をスマホアプリだけで完結させる「モバイルチケットサービス」の提供を計画しています。

Whimの現状

 先日、Whimのインパクトを評価した報告書「WHIMPACT」が公開されました。デンマークのコンサルタント会社Rambolが、WhimのオペレータであるMaaSグローバルから提供された2018年の一年間のデータを分析したものです。この報告書は、そのWhimユーザーのデータをヘルシンキの住民全体の統計情報(以下、ヘルシンキ住民)と比較しています。Whimユーザーは、ヘルシンキの住民に限りません。

  1. 移動に公共交通機関を利用する割合は、ヘルシンキ住民が48%、Whimユーザーは73%となっている。
  2. 公共交通機関とタクシーを組み合わせて(マルチモーダルに)利用する割合が、Whimユーザーがヘルシンキ住民の3倍になっている。
  3. Whimユーザは、ヘルシンキ住民よりも日常的に公共交通機関の利用の前後でシティバイクを、公共交通機関の後でタクシーを利用している。
  4. Whimユーザーは、ヘルシンキ住民の2.4倍タクシーを利用している。
  5. Whimユーザーのシティバイクでの平均移動距離は1.9kmで、シティバイクユーザー全体の2.1kmよりも約10%短くなっている。
  6. Whimユーザーの一日の平均移動距離は、ヘルシンキ住民と変わらない。
  7. Whimを利用した移動の95%は、公共交通機関によるものになっている。
  8. Whimを利用した移動の68%が、公共交通機関の利用が盛んな地域で行われている。
  9. Whimのアーリーアダプターは、マルチモーダルな移動を望んでいる。
  10. ユーザーは、Whimのルールを守っている。
  11. 数は少ないものの、Whimユーザーは自家用車の代わりに、日常の移動にレンタカーを使用する可能性が高いと示唆している。

 Whimには、月額料金のない「Whim to Go」と、月額49ユーロの「Whim Urban」、月額499ユーロの「Whim Unlimited」の三つの種類があります。Whim to Goは、各種のチケットをWhimアプリで購入できるだけですが、Whim Urbanは、ヘルシンキのトラベルゾーン内で公共交通機関は無制限に、5kmまでは最大10ユーロでタクシーを、一日49ユーロの固定料金でレンタカーを、一回30分以内で無料でシティバイクを利用できます。上の「Whimのルールを守っている」とは、5kmのタクシー利用や、30分のシティバイクの利用を連続して行なってはいないということです。

 Whim Unlimitedは、さらにレンタカーと5kmまでのタクシーの利用が無料になりますが、その利用者が非常に少ないので分析対象から除外しているとのことです。データには、徒歩、自家用車、個人所有の自転車、他人の車、他の人が支払ったタクシーなどの利用も含まれていません。公共交通機関、シティバイク、タクシー、そして数少ないレンタカーの利用が分析対象です。

 ヘルシンキの公共交通機関、ヘルシンキ区間内の14本のVR列車、11本のトラム、2本の地下鉄、290路線のバスは、HSL(ヘルシンキ地域交通局)によってまとめられており、それらが30日間利用できるトラベルカードの価格は54.7ユーロです。また、シティバイクのシーズン(4月から10月)の利用料金は30ユーロです。月額料金49ユーロのWhim Urbanは、30分の制限付きながらシティバイクを無料で、タクシーやレンタカーは割安な料金で利用できます。

 この報告書は、Whimの利用を開始した前後のユーザーの行動の変化の分析ではないので、Whimのインパクトをどのように評価するかは難しいところです。例えば、Whimユーザーが、ヘルシンキ住民よりも公共交通機関を利用しているという調査結果には、元々、公共交通機関を利用することが多かった人がWhimを利用するようになったのではないかという疑問が生じます。

 タクシーも割安で利用できるので、「公共交通機関とタクシーを組み合わせて利用する割合が、Whimユーザーがヘルシンキ住民の3倍になっている」「Whimユーザーは、ヘルシンキ住民の2.4倍タクシーを利用している」ということも当然のように思えます。

 ヘルシンキのタクシー料金(タクシーヘルシンキの例)は、1人から4人で平日の昼間に利用する場合、基本料金が3.9ユーロ、距離料金がキロあたり0.99ユーロ、時間料金が分あたり0.79ユーロとなっています。5kmで10分かかったとすると3.9+0.99x5+0.79x10=16.75ユーロになります。3kmほどで10ユーロを超えますが、Whim Urbanを利用すれば5kmまでは10ユーロで済むということです。これは料金が最も安くなる条件ですので、時間帯や乗車人数が異なった場合、また渋滞などによって時間がかかった場合は、通常のタクシー料金はさらに高くなります。

 MaaSグローバルは、「自動車の所有の終わり」というスローガンを掲げており、限定的な運用段階であった2017年9月には、Whimのユーザーが移動手段として自家用車を選択する割合が40%から20%減り、逆に公共交通機関を利用する割合が48%から74%に増加したと報告していました。しかし、この報告書には、そのような情報は記載されていません。

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