日本版MaaSの課題
東京や大阪などの日本の大都市は、鉄道網が非常に整備され、人口比で世界最大数のタクシーが走っています。JRや私鉄の地上駅を降りると、駅前にはバスやタクシー乗り場があり、ラストワンマイルの移動にもさほど困ることもありません。スマホの乗換案内アプリや地図アプリを利用すれば、複数の鉄道やバスなどの公共交通を利用したルートを検索することができます。出発地点から目的地までの徒歩を含めたルート検索が可能なものもあります。
SuicaやPASMO、ICOCAなどの交通系ICカードの相互利用サービスが開始され、日本の大都市圏内や大都市間の公共交通機関での移動は非常にスムーズになりました。大都市における日本版MaaSには、Whimと同様の、あるいは「よりフリクションが小さい」という点で、それ以上の課題があります。
しかし、自動車交通への依存度が増した日本の地方地域では公共交通が衰退し、多くの交通弱者が生まれています。また、高齢のドライバーによる自動車事故も増加を続けています。東京などの大都市でもバスの運転手が不足し、赤字でない路線でもダイヤの削減を余儀なくされています。報告書には「MaaSは移動システム自体を変更するのではなく、既存のシステムの、より動的で包括的な使用を容易にする」とありますが、移動システム自体が進化しなければ、MaaSの真価は発揮できないのではないでしょうか。
ガートナーは、新規テクノロジーは、初めて市場に登場した後に期待は急上昇し (黎明期)、 成果を伴わないまま過熱気味にもてはやされ(「過度な期待」のピーク期)、熱狂が冷めると市場がいったん停滞し(幻滅期)、改めて実質的な市場浸透が始まり(啓蒙活動期)、成熟したテクノロジとして市場に認知されるに至る(生産性の安定期)というハイプ・サイクルをたどるとしています。日本におけるMaaSは、まさに「過度な期待」のピーク期にさしかかっているように思えます。
日本版MaaSへの期待は、間もなく幻滅期に入るかもしれません。そして、実質的な市場浸透が始まるのは、自動運転などの新しい技術によって「より効率的なモビリティサービスや、これまでになかった(ニッチの)モビリティサービスが開発され」たときでしょう。そのような新しいモビリティサービスを数多く提供し、ユーザーの多様な目的や状況に合った最適な提案ができるMaaSが、より多くのユーザーの支持を得ることができるはずです。
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