2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2019年4月15日

 30年にわたって絶対的権力の座にあったカザフスタンのナザルバエフ大統領が3月19日、辞職を表明、トカエフ上院議長が大統領任期の残りを代行することになった。

(PictureLake/grebeshkovmaxim/iStock)

 ナザルバエフは「若い世代に譲る時が来た」と言っているが、辞職は、新指導者への移行を逐一管理するための方便であろう。ナザルバエフは辞職後も相当な権力を持つ特別な法的地位を与えられている。正式な肩書は「国家の指導者」で、国家安全保障会議議長職を引き続き保持し、直接軍部を支配する。また、終生、政策決定に介入する権利を有する。大統領時代の行動については訴追を免除され、彼と家族の資産は没収不可とされている。

 トカエフに代わって上院議長になった長女、ダリガ・ナザルバエワは次期大統領の立場にある。大統領選挙は本来2020年だが、年内に前倒しされるとの観測もある。今のところトカエフ大統領代行と、ダリガ上院議長が有力視されている。トカエフについてナザルバエフは辞任スピーチの中で、真にその資質を誉め、後任たるにふさわしいと述べている。

 ナザルバエフには、反対者を徹底的に弾圧する独裁者というマイナスの顔がある一方、カザフスタンを「見える」国にした功績は大きい。ロシア、中国、米国といった大国とはすべて良好な関係を有し、大規模な国際会議を主宰したり(2010年12月OSCE諸国首脳会議)、国際紛争の仲介をしたりして(例えば2018年にかけて、シリアについてロシア、米国、トルコ、イランを一堂に集めた会合を8回主宰)、国際的にかなりの存在感を築いた。

 内政では、ナザルバエフに逆らう政治家は文字通り殲滅されてきたが、全般的にはウズベキスタンよりは権威主義的な上意下達の雰囲気は薄い。しかし、それは健全な民主主義の基盤になると言うより、ナザルバエフという上部の重石が消えた時は、自負心の強いエリート達がばらばらの自己主張を強めて混乱に陥る可能性があることを示している。

 カザフスタンは、経済では、外資を受け入れ原油大国となることで、中央アジアで随一のGDPを築いた。他方、国民よりも「取り巻き連中」の方が大きな利益を得てきた、腐敗した体質が強い。ナザルバエフが長年笛を吹いている製造業、中小企業の振興についても、中世以来の歴史に起因する近代的ビジネス・マインドの欠如、中堅幹部の人材不足等からうまくいっていない。

 ナザルバエフが「院政」を敷くのは既定路線というのが衆目の一致するところであり、カザフスタン、中央アジアの情勢に今のところ大きな変化は起きにくいと思われる。むしろ、「院政」への移行型(鄧小平型と言ってもいい)の権力移譲が、ロシアでの「プーチン後」への議論をあおる可能性の方が興味深い。プーチンの任期は2024年までであるが、「国家評議会のような、半分非公式の新しい最高決定機関を作って、その長にプーチンを据える」というアイデアが既にフロートされている。

  
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