エジプトでは3月28日に大統領選挙が行われ、4月2日に結果が正式に発表された。現職のシシ大統領が約97%の得票率で再選されたが、投票率は約41%にとどまった。事前にシシの圧勝が予想されていたので、有権者の関心が低かったのは当然である。シシ政権としては、正統性を強調するために投票率を上げようと腐心したようだが、前回2014年の選挙の47%を下回る結果となった。選挙直前の3月22日付けのエコノミスト誌の記事‘Egypt’s choice: President Sisi, or a man who adores him’は、今回の選挙を「茶番」と酷評している。
シシに挑戦しようとした有力な候補者は2人いた。1人は元空軍司令官のアフマド・シャフィークである。同氏は、2012年の大統領選挙に出馬し、ムスリム同胞団のモルシに敗れている。もう1人は、サミ・アナン元参謀総長である。シシはこの二人を拘束し、脅迫し、選挙戦から排除した。今回の選挙では、多くの人間がいわれなき罪状で投獄され、メディアと市民グループが抑圧され、治安当局による逮捕と拷問が伝えられる等、弾圧的な雰囲気の中で行われたとされる。したがって、民主主義的正統性という面では、全く怪しいものであったと言わざるを得ない。
シシが頼みとするのは軍であり、軍以外には十分な支持基盤を築けずにいる。しかし、最終的には阻止されたものの、シャフィークとアナンという軍の出身者2人がシシに挑戦しようとしたことは、軍の一部に不満がある可能性を示している。紅海の二つの小さな島の領有権をサウジアラビアに譲ったことに軍が不満を持っているとの指摘もある。不満が今後更に大きくなるのか否かは判らない。
シシの立場が直ちに危うくなるということはないであろうが、社会が不安定化すれば、軍がシシを見限る可能性は排除できない。そういうことになるかどうかは、シシが経済と安全保障という二つの主要な課題への対応ぶりにかかっている。
シシは、経済については補助金の削減やエジプト・ポンドの切り下げなどの痛みを伴う改革を行った。それは必要な措置であったがそのためにインフレが進み、昨年のインフレ率は34.2%となった。国民の生活は苦しくなっており、何時まで我慢を強いることが出来るかという問題がある。他方、昨年12月の新たな海洋ガス田の操業は、ドラスティックではないものの明るい材料である。