立花聡の「世界ビジネス見聞録」

2019年5月10日

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立花 聡 (たちばな・さとし)

エリス・コンサルティング代表・法学博士

1964年生まれ。早稲田大学理工学部卒。LIXIL(当時トステム)東京本社勤務を経て、英ロイター通信社に入社。1994年から6年間、ロイター中国・東アジア日系市場統括マネージャーとして、上海と香港に駐在。2000年ロイター退職後、エリス・コンサルティングを創設、代表兼首席コンサルタントを務め、現在に至る。法学博士、経営学修士(MBA)。早稲田大学トランスナショナルHRM研究所招聘研究員。

 

郭台銘氏と中国の関係

 トランプ氏と郭台銘氏を比較するならば、特筆すべきは企業の属性と事業の場所である。

 トランプ氏のメイン事業を司る企業トランプ・オーガナイゼーションは、米国企業であり、ニューヨーク市マンハッタンに位置するトランプ・タワーに本拠地が置かれている。主な資産もニューヨークやフロリダ州等の米国内にあり、事業運営は米国法の下に置かれている。海外資産については、イスラエル、インドネシア、南ア、カナダ、トルコ、パナマ、韓国、フィリピン、インドなどいわゆる対米友好国に分布している。利益相反がないとまではいえないが、少なくともその大部分は把握可能な範囲に収まっている。

 しかし、郭氏はまったく違う。中国に巨額の投資を30年以上も前から行ってきた。iPhoneの製造工場を含めて生産拠点の8割を中国に置き、現地で約100万人を雇用しているスーパー級のチャイナ・パートナーである。むしろ簡単に撤退できない事業である。

 中国撤退といえば、香港最大のコングロマリット長江和記実業(CKハチソンホールディングス)元会長、李嘉誠氏を想起する。李氏の場合は過去6年にわたって中国から段階的に撤退し、中国資産(香港を含む)を総額ベースで1割にまで縮小させた(参照:香港大富豪の「中国撤退」がついに終盤戦へ)。不動産は売却すれば引き揚げられるが、製造業はサプライチェーンも絡んでいる以上、そう簡単に撤退できない。さらに、100万人という雇用規模を考えれば、政治的社会的問題も大きい。

 鴻海系・フォックスコンの中国工場では2009~2010年頃、累計10人以上の従業員が飛び降り自殺する事件が相次いだ。過酷な労働条件に問題があるとの批判を受け、改善措置を講じながらも、2012年にまたもや労働問題でストライキが発生し、2015年に違法残業の問題も再浮上していた。だが、騒動が多い中でも、郭氏の中国事業は基本的に順風満帆だった。

 直近では、昨年2018年の鴻海の中核子会社・工業富聯(FII=フォックスコン・インダストリアル・インターネット)のスピード上場(上海株式市場)が記憶に新しい。FIIは18年2月に上場を申請したところ、3月に中国当局が上場を承認するなど、申請から上場まで平均1~2年かかる中国では異例の早さだった。2018年6月8日付けの日本経済新聞電子版は、「台湾を代表する有力企業を囲い込み、台湾経済の空洞化につなげたい中国の思惑が透ける」と指摘した。

 郭氏と中国はべったりというよりも、この緊密な関係からすれば、むしろ運命共同体と言ったほうが適切だろう。そこから生じる台湾との「利益相反」をどのように解消していくか。まず、トランプ氏の米国内事業と違って、台湾海峡の対岸にある中国国内の事業であるが故に、利益相反の有無を調査・監視することすら不可能だ。

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